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1-20 真意 [アストラルコントロール]

本田幸子は、アイドルになる以前から、片岡優香に恋していた。
だが、それは、決して口にすることができない思いだった。ただ、そばにいられればという願い。
それを、社長に知られてしまったのだ。それから、社長は、本田幸子に無理やり肉体関係を迫った。
それを、片岡優香が知り、社長を脅したのだった。それでも、本田幸子は社長の奴隷であった。
ただ、片岡優香の傍にいられる、それだけが彼女の救いだった。
「本田幸子さん、あなたを片岡優香さん殺害の罪で逮捕します。」
五十嵐が、本田幸子に手錠をかける。
すぐに、武藤と林田がやってきて、彼女を連行する。
手錠をかけられ部屋から出ようとしている本田幸子に五十嵐が声をかけた。
「ねえ、一つ教えて。無理心中しようとした貴女がどうして、致命傷を負わなかった・・いや、ぎりぎりのところで助かるようにしたの?」
本田幸子は驚いた顔で五十嵐を見た。
「・・違う・・死ぬはずだった。いや、確実に死ねると・・。でも・・」
そこまで言った時、武藤が「続きは署で聞かせてもらおう。」と遮るように言った
歯切れの悪い結末になったが、無事事件は解決した。
「これで事件解決ね。射場さん、すごい洞察力、いえ、探偵みたいだったわ。」
だが、零士は浮かぬ顔をしていた。
「どうしたの?」
五十嵐が訊く。
「本当にこれで終わったんだろうか?」
零士が答える。
まだ、自分がなぜ事件現場の夢を見たのか、全く解明できていなかった。そして、彼女、本田幸子が最後に言った言葉も気にかかっていた。
「どういうこと?」
五十嵐に問われたが、その場では、うまく説明できなかった。ただ、何か、まだやり残しているような感覚だけがあった。
次の日から、本田幸子への取り調べが始まった。現場検証や自宅の捜索などが続いていた。本田幸子は取り調べに素直に応じ、極めて短時間で事件の後始末が進んでいった。
そんなころ、零士へ五十嵐から連絡があった。いつもの公園で、零士は五十嵐を待っていた。
署の玄関から走り出てくる五十嵐が目に留まった。
五十嵐は、公園のいつもの場所に零士の姿を見つけると、まるで、恋人に会いに来たような笑顔を見せて、大きく手を振った。そんな五十嵐を見て、零士は胸の鼓動が高まるのを感じていた。
「いやいや・・何を感じてるんだ・・。」
零士は自嘲気味に呟いた。
「ごめんなさい、ちょっと手間取っちゃって・・。」
五十嵐の口調が少し違う。それに、以前よりも、丁寧に化粧しているように感じた。
「捜査は?」と零士が言うと「ええ、順調。彼女、態度はいいわ。まあ、殺人罪は免れないでしょうけどね。取り調べに素直に応じれば、量刑は少し減るかも・・。」と五十嵐が答えた。
「零士さん、今回は本当にありがとう。あなたがいなかったら、きっとまだ解決できなかったわ。それに・・」
五十嵐はそういった後、もう少し何か付け足そうとしたのだが、言葉が出なかった。
いきなり、下の名前で呼んだのはどういう意図なのか。
零士はそのことにとらわれてぼんやりしていた。
「零士さん?どうしたの?」
五十嵐の言葉ではっと我に返り、返答する。
「ああ・・まあ、お役に立てたのなら、よかった。」
「すんなり自供して、検察に送れば事件は終了。でも、なんだか、ちょっとね・・。」
五十嵐の顔が曇った。それは、本田幸子を逮捕した時に、零士の中にも残っていた感情だった。
「ああ・・そうだな。やっぱり、どこかすっきりしない。」
「ええ、そうなの。」
少し会話が途切れた。お互いにどこから切り出そうかと言葉を探しているのだった。

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