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2-15 山崎の見立て [アストラルコントロール]

「それで、その赤い髪の女が犯人というわけか?」
山崎は少しがっかりしたように返答をした。当然だった。赤い髪の女性が辺りにうろついていた証拠は集まったものの、殺害につながる直接的な証拠はない。まさか、零士が夢で見たのだと言えば、さらにがっかりさせるに違いないと五十嵐は考え、返答に困っていた。
「今までいくつか事件を解決してきた経験から言えば、おそらく、赤い髪の女性は殺害犯だろう。では、今、どこにいる?赤い髪で目立っているのは承知してうろついていたとすると、今は、全く別人になっているに違いない。捜査を混乱させるためのカモフラージュという可能性が高い。」
山崎の反応は予想外だった。
「赤い髪や派手な服装以外の特徴を掴めないと犯人にはたどり着けないだろう。」
山崎が続けた。
「マスクもサングラスもしていて顔を見た者はいません。」
五十嵐が答えると、「ちょっと、そのSDの動画を見せてみろ。」と山崎が言った。すぐにカバンから取り出して、近くにあったパソコンで画像を開いた。
「ここです。」
五十嵐が言うと、山崎がじっと食い入るように見る。
「もう一度。」
と、山崎が言う。何度も何度も同じ場面を見た。
「あ・・。」と五十嵐が言うと、「気が付いたか。」と山崎。
「この歩き方・・右足を少し引きずっている。それと、ハイヒールが歩きにくそう。」
と五十嵐が言う。
「ああ、そうだ。歩き方は特徴がある。まして、この女性は足を引きずっている。けがをしているのか、生まれつきなのかはわからないが、右足が少し不自由だ。それに、ハイヒールも履きなれてはいないんだろう。」
「ええ、そうですね。サイズがあっていないような感じですし。」
「もっとよく見ろ。」と山崎が言う。
五十嵐は、画像をスローにして時々止めながら見た。
「指が・・指が太い。女性らしくない。」
「ああ、そうだ。もしかしたらだが、これは女装した男性の可能性がある。」
大きなヒントだった。男性で、桧山が連れ帰ったとすれば、あの離れに閉じ込められている息子の可能性がある。
「もう一度、桧山邸に行ってみます。」
「ああ、そうしろ。だが、捜査令状が出ているわけじゃない。慎重にな。」
山崎が背中を押すように送り出した。
五十嵐は、まっすぐに桧山邸に向かった。
そのころ、零士は、桧山邸の周囲を探っていた。
赤い髪の女性が目撃された場所に何か意味はないか。目撃証言で示された場所を何度も何度も歩いてみた。いずれも、桧山邸の周囲とコンビニまでの道だった。そこ以外では目撃されていない。
「まさかな・・。」
零士も、五十嵐と山崎がたどり着いた結論に行きついていた。
「確か、閉じ込められているということだったが・・。母親が時々、桧山氏の目を盗んで離れから出していたとは言っていたようだが・・。」
零士は、五十嵐から聞いた話を記録したメモを広げた。
「事件の日は、母親は不在だったか。じゃあ、部屋から出られなかったはずだな。」
そう呟きながら、桧山邸の周囲を歩いた。
桧山邸は豪邸だった。
高級住宅街の中でもひときわ大きく、周囲をぐるりと要の木の生垣が巡り、生け垣の下には石垣もあって、通りから一段高くなった場所に立っていた。だが、豪邸にありがちな監視カメラはなかった。零士は、贈収賄事件ネタを追っていた時、玄関がまっすぐ見える公園の藪の中に身を潜めていたが、車が通り抜けられるほどの大きな門と背の高い門扉に遮られて中の様子を知ることはできなかったのを覚えていた。
「離れにいる、軟禁状態の息子には無理か・・。」
そんなことをつぶやいていると、コンビニの方角から五十嵐がやってくるのが見えた。

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