SSブログ

2-5 高級マンション [アストラルコントロール]

五十嵐のマンションは、待ちの北側の高台にある高層マンションだった。
零士は、マンションの玄関前に立ち、思わず見上げた。自分の安アパートとはずいぶん違う。これが、フリーライターと公務員の差なんだと思い知った。
「さあ、行きましょう。」
玄関のセキュリティは顔認証のようで、五十嵐が玄関ドアに立つとすぐに開いた。後ろについて、零士が通り抜けようとしたとき、オートロック装置から「警告!警告!」の声が響き渡った。
「いけない!」
五十嵐はそういって、すぐにオートロック装置の画面を開いて、「ゲストあり」というボタンを押した。
「ごめんなさい。ちょっとセキュリティが厳しすぎるのよ。こういう仕事だから、どうしてもこういう場所でないと困るのよ。」
そういうと、エレベーターホールへ向かう。
彼女の部屋は20階だった。
部屋のドアを開けて中に入ると、長い廊下の先に広いリビング、そして、大きなサッシ窓から夜景が見える。
零士は女性の部屋をじろじろ見るのは避けようとしてきたが、それ以上に、部屋の中に家具類がほとんどないことに驚いた。
広いリビングの中央に大きなソファが一つと小さなテーブル。キッチンもほとんど使っていないのがありありとわかるくらいに、生活臭のない部屋だった。
「これじゃ、彼もできないだろうな、と思ってるんでしょ?」
零士が思うと同時に五十嵐が言った。
「あ、いや・・そんな・・。」
零士は心を見透かされたように驚いて答えた。
「いいのよ。そういうことなの。仕事に明け暮れて、自分の暮らしさえまともにできない。ここは、ほとんど、眠るためだけにあるようなものだから。」
「それにしても・・。」
と零士は口を開きかけて、飲み込んだ。
彼女のプライベートに踏み込むことは本意ではない。彼女とは、事件に関連しただけの関係であり、それ以上ではないのだ。彼女がどう生きるかなんて関心を持つことではない。
「シャワーを浴びてきてもいい?冷蔵庫に飲み物ならあるからご自由に。」
五十嵐は、零士が承諾するでもなく、そのまま、バスルームへ向かった。
零士はとりあえず、冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを取り出し、窓際に座った。
「ここから、町を監視している感じだな。」
零士はしばらくぼんやりと景色を眺めていた。
そのうちに、五十嵐がバスルームから出てきたようだった。
「すみません。またせしました。」
彼女は、青いジャージ姿だった。
「零士さんの夢の話を聞く前に、ちょっと、食事をしてもいい?」
零士の返事を待たず、彼女はコンビニで買ってきた袋から、弁当を取り出し食べ始めた。かなり空腹だったのか、零士の前で恥ずかしげもなく大きな口を開けて食べる。
「まるで、子どもだな。」と零士は心の中で呟いた。さっきまで、女性の家に入ることに葛藤があった自分がなんだか可笑しくなってきた。
「さあ、良いわ。腹が減っては戦にならぬっていうじゃない。」
空になった弁当を片付けながら、満足した様子で、五十嵐が言って、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを持ってきてごくりと飲んだ。
「それで、零士さんが見た夢って?」
五十嵐はそういいながらソファに腰を下ろした。窓際に立っていた零士は「ああ」と言いながら、ソファの横の床に座り込む。
「そこじゃ話しにくいわ。こっちへ来て。」
零士はドキッとした。さっきまで子供のように見えていたのに、言葉一つで急に大人の女性になった。五十嵐佳乃という女性には、理解しがたいところがある。
「ああ。」と、零士は再びあいまいに返事をして、五十嵐の横に座った。
「あの、桧山邸のことなんだが・・。」
零士はそういって、自分が夢で見た光景を細かく漏らさず五十嵐に話した。

nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント