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2-7 捜査開始 [アストラルコントロール]

翌朝、五十嵐は署へ着くと、真っ先に、山崎の姿を探した。山崎は自分のデスクにいて、新聞を広げていた。
「あの、山崎さん、ちょっとよろしいでしょうか?」
五十嵐は、神妙な顔をして山崎に言った。
「五十嵐、ちょうど良かった。昨夜の事件のことでちょっと思うところがあってな。」
山崎は立ち上がると、刑事部屋の隣にある小さな会議室に五十嵐とともに入った。
山崎は窓から外を見ながら、言った。
「五十嵐はどう思う、昨日の事件。自殺だと思うか?」
いきなりだった。山崎も不審に感じているようだった。
「いえ、他殺だと思います。」
五十嵐は短く答えた。
「そうか・・。根拠は?」
山崎に訊かれてどう答えようか迷った。零士から聞いた話をそのまま伝えたところで到底信じるはずもなく、むしろ、逆効果ではないかと思った。そこで咄嗟に答えた。
「自殺の動機がはっきりしません。」
「そうだな。他殺の証拠は出ていないが、自殺の動機も掴めていない。結論を出すには早すぎるな。」
「できれば、他殺の見立てで捜査をさせていただけませんか?」
五十嵐は思い切って提案した。
「どこから調べる?」
「昨夜の桧山氏の行動から調べてみます。自宅に戻る前、どこにいたか、誰かと会っていたのか、一人で自宅に戻ったのか。そのあたりから調べてみたいと考えます。」
「良いだろう。だが、他の者には気づかれるな。報告は私だけにするんだ。」
「どういうことですか?」
「いや、例の贈収賄の件で、2課が動こうとした矢先、被疑者が死亡した。今、2課は捜査の立て直しを迫られている。そんな時、他殺で捜査していると知れば、きっと便乗してくるだろう。贈収賄の関係者による暗殺説なんぞ振り回してくるかもしれない。ミスリードになりかねない。」
2課はそれほど今回の事件に力を入れていたのだった。
五十嵐は、山崎の言葉の意味がよく分かった。前の事件の時、思い込みと証言だけで危うく射場を殺人犯に仕掛けたことを山崎も悔いているようすだった。
「こっちは、自殺の線で証拠固めをすると2課には報告した。良いな。決して気づかれるなよ。」
妙な雲行きになってきた。
やはり贈収賄事件は存在した。政治がらみの事件で、捜査2課が動いていた。全く気付かれずに動いていたところを見ると、市議程度の関与している事件ではなさそうだった。もっそ、大物が絡んでいるに違いないこともわかった。
知らないうちに、その渦中に入ってしまったことになる。
「お前ひとりで動いてる程度なら、2課の連中も気にはしないだろうが、慎重にな。ああ、そうだ、お前からも話があったようだが、どうした?」
山崎が訊いた。
「いえ、特に。ただ、これから他殺の方向で捜査するとしても私一人では・・。」
「そうか・・だがな・・。」
「あの、フリーライターをしている友人がいるんですが・・。」
といったところで、山崎が言った。
「射場だろう?前の事件で、確か、本田幸子を自白に追い込む鋭い推理をしたらしいな。」
山崎は知っていた。
「ええ、彼に手伝ってもらってもよろしいでしょうか?」
「正式に訊かれれば、だめだというほかないだろう。捜査にしろうを巻き込むことなどあってはならないことだ。」
「しかし・・。」と五十嵐が反論しようとしたところで山崎が言った。
「事件の聞き込みで、偶然、射場の協力を得ることになったというなら話は別だ。好きにしろ。まあ、お前の情報屋として使えばいいだろう。さあ、行け。みんなには、別の事件を追っていることにしておく。」
山崎の言葉を受けて、五十嵐は、署を飛び出していった。

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