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3-8 悲惨な現場 [アストラルコントロール]

五十嵐が現場に着くと、すでに何台かの警察車両が到着していた。周囲を見回してみたが、零士の姿はなかった。
「頭を割られた状態でほぼ即死でした。」
現場検証していた鑑識官が五十嵐に告げた。
「凶器は?」と五十嵐。
「鉈ですね。はじめに現着した警官が、脳天に刺さった状態で発見したようです。そこの土間に有ったものでしょう。それから、玄関も裏口も、廊下もすべて鍵は掛かっていませんでした。日頃から、不用心だったようですね。」
「物色した痕跡は?」と五十嵐。
鑑識官が、周囲にいた者たちに訊いてから答えた。
「今のところ、モノ盗りの線は薄いようです。資産家ではありますが、家の中は金目のものは少ない。強盗というより怨恨ではないでしょうか?」
その話の最中に、山崎と武藤が顔を出した。
「それは我々が調べることだ。」
武藤が、鑑識官をたしなめるように言った。鑑識官はむっとした顔をして、そこを離れた。
「五十嵐、やはり、射場さんからの連絡か?」
山崎が耳元で囁くように訊いた。
五十嵐が頷く。
「やはり、本物か。それで、彼は?」
「いえ、先ほどから探しているんですが、来ていないようなんです。」
「そうか・・。」
山崎はそう言うと、殺害現場となった和室に入った。武藤も後に続いて入る。
「変ね・・。」
五十嵐が小さくつぶやく。すると、急に頭の中で声がする。
『零士さんは、今、動けない状態なんです。』
「なに?」
五十嵐は驚いて蹲った。
『驚かせてごめんなさい、レイです。今、あなたの思念波とシンクロしています。現場の様子は私もあなたと同じように見る事が出来ます。もちろん、剣崎さんも。』
五十嵐は初めての体験でしばらく動けなかった。
『大丈夫です。操ったりしませんから。あなたの視覚や聴覚、思考にシンクロしているだけです。それより、零士さんのことですが、やはりアストラルコントロールをされていました。今、彼の思念波、意識が肉体から離れそうなんです。食い止めるため、剣崎さんたちが零士さんのアパートに向かっています。』
レイから告げられたことに再び驚いていた。
「どうした、五十嵐?」
殺害現場を見終わった山崎が戻ってきて、五十嵐の様子がおかしいことに気づいて声をかけた。青ざめた表情を浮かべ、涙を浮かべている。無残な殺害現場を見たことが原因ではないことは、これまでの現場検証から、山崎には分った。
「すみません・・。射場さんが・・。」
山崎にだけ聞こえるように小さな声で五十嵐が言った。
「何があった?」
「レイさんから・・射場さんが危ないんです。意識が肉体から離れてしまいそうだと・・。」
山崎には五十嵐の話がよく理解できなかった。だが、これまで、彼の力で事件を解決し、五十嵐にとって射場が大切な人になっていることを山崎も理解していた。
「五十嵐、ここはいいから、射場さんのところへ行け。」
「しかし・・。」
「良いんだ。彼が見たものはこの事件を解くカギになる。彼には生きておいてもらわなければならない。すぐに行け。」
山崎はそう言って五十嵐の背中を押す。
「すみません。」
五十嵐はそう言うと、現場を離れて、零士のアパートへ急いだ。

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