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3-7 第3の事件 [アストラルコントロール]

剣崎たちが零士を監視し始めて3日ほどが経ち、その間は、何も起こらなかった。
このまま監視を続けておくべきかどうか、剣崎も考え始めていた。こちらの動きを察知して手を引いたかもしれない。別の場所で同様のことが起きているのではないか。剣崎は少しずつ苛立つようになった。
零士は、市内で起きた交通事故について調査を始めていた。
若い母親と幼子がひき逃げにあった事故で、運転していたのは高齢ドライバーだった。もはや珍しくない事故だったのだが、ドライバーが資産家で地元の名士と言われた人物だったため、警察がどこまで罪を問う動きをするかを調べていたのだった。資産家の息子の議員も動くのではないか。そう零士は考えて、前の事件の時のように、加害者の邸宅近くに身を潜めて様子をうかがっていた。
その間も、剣崎たちの監視は続いていた。
その日の夜遅く、自分のアパートに戻った零士は、急に睡魔に襲われた。その時の感覚で、これは事件の現場にアストラルするのではないかという予感がした。
予感は的中した。
零士は、古い邸宅の中にいた。初めての場所だった。
目の前で、高齢の男性と中年の男性が揉めている。
「どういうつもりだ!」
中年の男性が高齢の男性に怒鳴る。
「うるさい!」
高齢の男性も負けてはいない。
「運転するなとあれだけ言っただろうが!」
二人のやり取りを見て、高齢の男性は、今調べている交通事故の加害者、加茂善三だとわかった。そして、中年の男性は加茂善三の息子で、県会議員の加茂正だった。
交通事故を起こしたことで、議員としても道義的責任を問われているのは知っていた。
「お前の力など借りぬわ。」
加茂善三は吐き捨てるように言った。
「そうか、それなら勝手にしろ!親父とはもともと血のつながりなどないんだ。勝手にしろ!」
加茂正はそういって出て行った。
『事件は起きなかったな』
幽体になっている零士が呟く。
加茂善三は憮然とした表情で、広い和室に置かれた座卓に座った。
誰かが背後から近づいてくる。それは、風のような動きだった。
「うう・・。」
うめき声が漏れる。そのまま、加茂善三が倒れた。頭には、鉈が深く食い込んでいた。背後から来た男が一撃で加茂善三を殺害した。そして、身じろぎもせず、すっと部屋を出て行った。
零士が加茂善三に近寄ると、すでにこと切れていた。
『今のは誰だ?』
零士がそう思ったと同時に、目が覚めた。
零士は、すぐ五十嵐に連絡した。
「事件が起きた。加茂善三氏が殺された。」
「わかったわ。近くの駐在に行って確認してもらうわ。」
零士も現場に向かおうと立ち上がったが、眩暈がして起き上がれない。
ベッドの上の天井がグラグラと動いているような感覚。そのうえ、両手両足に力を入れようとしてもどうにもならない。
そのうち、なぜかふわふわした感覚に包まれ、自分の意識だけが体から離れていくように感じた。
「動いたわね。」
零士の監視を続けていた剣崎がトレーラーハウスのソファに座って言った。
「ええ・・やはり、アストラルコントロールを受けていますね。」
レイが答える。
「急がないと、零士さん、危ない。」
マリアが言った。
「大丈夫だ。私が先に行って、肉体に留まるように力を与えよう。」
伊尾木の思念波の塊が、マリアの体から抜け出て、光となって飛んで行った。

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