SSブログ

3-5 監視の目 [アストラルコントロール]

「えっ?帰るの?」と五十嵐が言う。
「ああ、帰る。ここにいるのはだめだってさっき言ったじゃないか。」
「いいのよ。別に。・・いえ、そうじゃない。今日は居てくれない?昼間のことでちょっと心が弱くなってるみたいなの。一人で寝るのはつらいわ。」
今回、五十嵐の言葉には、零士もちゃんと答えなければならないと感じた。
「そうか・・そうだな。あれはちょっときつかったな。・・実は僕もこのまま家に帰るのはちょっと怖かったんだ。アパートの周りに僕を監視する人物がいると思うとやっぱり嫌だし・・。」
零士は五十嵐の提案を受け入れた。
その夜、二人はベッドで一緒に眠った。
翌朝、二人はモーニングサービスのある喫茶店に入った。周囲を見てもお客は数人いるほどだった。
「監視はされていないようだな。」
零士は、周囲の客の様子をつぶさに見て小さな声で言うと、五十嵐も周囲を見ながら頷いた。
「ええ、そうみたいね。」
トレーラーに控えていた剣崎には、その様子をレイがシンクロ能力でハッキリと捉えることができていた。
「監視するというのはちょっときつかったようね。」
剣崎は苦笑いしていた。
しばらくすると、アルバイトだろうか、若い娘が、モーニングサービスを運んできた。トーストとサラダとゆで卵が大き目の皿にのっている。少し遅れて、熱いコーヒーも運ばれてきた。
「ここには、よく来るの?」
トーストを口にしながら五十嵐が訊いた。
「前にも話したと思うけど、仕事で行き詰ったり、疲れたりしたとき、よく寄り道するんだ。コーヒーが絶品なんだ。」
零士はそう言いながら、コーヒーを飲む。
「昨夜は夢は見なかった?」と五十嵐が何気なく訊いた。
夕べ、同じベッドで眠った。お決まりのように、二人はそこで体を重ねた。零士は、急に昨夜のことを思い出して、五十嵐と目を合わせられなくなった。
「どうしたの?」
「あ、いや、昨夜は、よく眠れた・・かな。」
零士の答えに、急に五十嵐も思い出して顔を赤らめた。少し二人は沈黙した。
剣崎たちはじっと様子を見ていた。
「この店に、何か感じる。」
マリアが目を閉じたまま言った。
モーニングセットを食べ終わるころようやく、五十嵐が口を開く。
「アストラルコントロールって言っていたけど、本当にそうなのかしら?」
「幽体離脱だと言われると、何かオカルトめいた感じだが・・アストラルコントロールと聞くと別物に感じるな。」
零士は五十嵐の問いには答えず、まるで他人事のような言い方をした。
「いずれにしても、今までの事件に何か関連のある人物が、アストラルコントロールの能力を持っていて、僕を操っていると言われると、かなり納得できた。ただ、どうしてそんなことをするのかは見当もつかないが・・。」
「剣崎さんは信用できるのかしら?・・彼女たちが実は零士さんを操っているってことはない?」
「まあ、あの体験で彼女たちの能力は本物だった。確かに、やろうと思えばできるだろう。でも、そんなことをして彼女たちにどんなメリットがある?」
零士がちらりと壁にかかっていた時計を見て言った。
「時間は大丈夫か?」
五十嵐が腕時計を見る。
「いけない。私、行かなくちゃ。」
五十嵐は、財布を出そうとした。
「いいよ。」と零士が言うと、五十嵐がちょっとウインクして「ありがとう」と言って出て行った。
零士は、一人、店に残った。
「マスター!ホットのお替り。」
「わかりました。」
カウンターの向こうから、しわがれた声がした。

nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント