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3-5 ふたり [アストラルコントロール]

剣崎たちが出て行って、山崎が口を開いた。
「すまなかった。こんなことになると思ってもいなかったんだ。」
正直な気持ちだった。
零士はどう答えていいのかわからなかった。ただ、剣崎の話はにわかには信じられない内容だったのだが、以前から自分の中にあった大きな疑問であった「なぜ事件現場の夢を見たのか」の入口に立ったことは確かだと思えた。
剣崎の言う通り、誰かに操られているとすれば、気持ちのいいものではない。いや、むしろ、これから犯罪に巻き込まれてしまうかもしれないという不安が湧いてきていた。
「山崎さん、これからどうすれば良いんでしょう?」
五十嵐も率直に訊いた。
「いや・・それは・・剣崎さんが話したように、普段通りで良いだろう。射場さんはともかく、君は直接、剣崎さんの監視下に入るわけではないだろう。」
山崎にそう言われても、先ほど体験した「頭の中に他人がいる」という感覚がまだ残っていて、思い出すと怖くなる気持ちが抑えられなかった。
零士がしばらくそういう感覚を体験するのかと思うと、悲しくなってくる。
「五十嵐さん、大丈夫だ。僕自身もあの”夢の体験”には疑問があった。もやもやとした中で暮らしていたんだ。誰かに操られていると聞けば、より不安になる。一日も早く、僕を操っている人物を突き止めないといけない。そう決めたんだ。」
零士は五十嵐を説得するように話した。
まだ勤務時間内だったが、五十嵐は山崎の許可を取って、早々に帰ることにした。
なんだかずいぶん疲れていた。零士も、とてつもない荷物を背負わされた感じがして、すぐに家に戻りたいと思っていた。
二人そろって、署を出た。周囲を見たが、監視をしているような人物はいない。
「ねえ、零士さん、ちょっと家で話さない?」
五十嵐が言うと、零士は「ああ、そうだね。」と答えた。
零士と五十嵐は、高層マンションの自室へ入る。
「正直、こんなことになると思っていなかったわ。」
五十嵐は、自室に入るとすぐソファにゴロンと横になって天井を見上げた。
「ああ、そうだな。」
零士も、床のラグに横になって答えた。
「監視しているといったけど、こんな高層の部屋をどうやって監視するつもりかしら?」
五十嵐がぼんやりと外を見ながら言った。
「いや、君は監視されていないんだよ。」
「ああ、そうか・・。じゃあ、しばらく、夜はここにいたらいいんじゃない?」
五十嵐はそういってから、ずいぶん大胆なことを言ったと恥ずかしくなった。
零士はそういうことには気づかずに「それも良いね」と軽く答えた。
しばらく沈黙があった。
「いや、それはだめだよ。」「駄目よね。」
二人同時に起き上って、叫ぶように言った。なんだか妙に可笑しくて二人とも吹き出してしまった。
「まあ、監視と言っても、自分が何か悪いことをしているわけじゃないんだから、気にすることもないよな。」
「そうよ。ねえ、お腹空かない?」
「ああ、何か食べに行くか?」
「外に出ると監視が付くでしょ。デリバリーしましょう。」
五十嵐は立ち上がり、スマホを開くと、デリバリーの注文をした。おそらくピザだろう、零士はそう思った。五十嵐はたいていデリバリーはピザだ。特に、こっちに何も聞かなくて勝手に注文するときは必ず。おそらく、そういう習慣なんだろう。
「ピザでいいわよね。」
予想通りだった。
しばらくすると、デリバリーボーイがピザを運んできた。二人は、黙々と食べた。何か話をすればきっとまた同じ話になる。だから、黙って食べるしかなかった。
食べ終わってから、零士が立ち上がり、帰り支度を始めた。

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