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3-10 第一の容疑者 [アストラルコントロール]

「凶器になった鉈から、指紋が検出されました。」
事件の捜査は、鑑識班の鑑定結果が出て、一気に動き出した。
また、周辺の聞き込みから、事件当夜、大声で怒鳴りあう様子と加茂善三宅から飛び出してきた男の目撃情報が出た。
指紋照合の結果、息子の加茂正が最有力容疑者として浮上し、重要参考人として任意同行を求める方向で捜査本部は動き始める。
「これほど確実な物証と目撃情報・・鵜呑みにはできないな。」
捜査本部の動きに、山崎は懐疑的だった。
「ええ・・しかし、これだけ確実な証拠が揃った状態で何もしないというのも、警察が議員に忖度していると世間からバッシングにあうでしょう。」
捜査会議の席で、隣に座っていた武藤が小声で応える。
「捜査課長は厳格な男だ。反対すればかえって決着を急ぎかねない。我々は様子を見るとしよう。」
山崎が呟くと同時に、捜査1課長が立ち上がって言った。
「加茂正に任意で事情聴取する!今回は、現場にいち早く到着した山崎班に任せる。ただし、相手は現職議員だ。マスコミに漏れないよう慎重に進める。良いな!」
片桐課長は、山崎の動きをけん制するかのように命令した。
「そう来たか。」
山崎は立ち上がり、「わかりました。」と答えた。
加茂正は現職の市会議員であるため、社会的信用を大きく損ねる恐れがあり、出頭を求める形ではなく、外部に漏れないようにして、秘密裏に事務所へ行く形で事情聴取することになった。
事情聴取には、五十嵐と林田巡査長が向かうことになった。
警察とは悟られぬよう、いつもとは違い、五十嵐は着飾り、林田もカジュアルな服装にして、大きな手土産の袋をカモフラージュにして陳情に伺う形で、事務所へ向かった。前日、事件について伺いたいと申し入れ、外部から悟られぬ形でならという事務所からの要請にこたえる形を取った。
駅前にあるビルの一角にある事務所には、加茂正氏と秘書の結城哲也氏が待っていた。
加茂正氏は、極めて不機嫌であった。
父が殺されたことだけではない、それ以前に父加茂善三氏が起こした交通事故の一件でも、世間から大いにバッシングされ、所属する議員会派から議員としての道義的責任を追及する声も出始めていて、窮地に立っていた。
その上、警察からの事情聴取となり、不本意極まりない状態だった。当初は、拒否姿勢を見せていたが、秘書の結城氏からの説得を了承してようやく今に至っていた。
「あの日は確かに親父と口論になりました。あれだけ運転するなと言っていたのに、あんな事故を起こして・・とにかく自分勝手な人でしたから・・。」
五十嵐と林田が席に着くや否や、正氏は強い口調で話した。
「それで?」と林田が訊く。
「頭にきて、好きにしろと怒鳴って、帰りました。」
「帰りは一人で?」と林田。
「ええ、だが、余りにも腹立たしくて、冷静になろうと、家を出てしばらく歩きました。」
「どれくらいの時間でしたか?」と五十嵐。
「いえ、それほど・・自宅から、公園までですから・・10分ほどでしょうか。」
「それから?」と五十嵐。
「迎えを呼んで・・ああ、そうだ、ここにいる結城に電話をして車で迎えに来させました。」
正氏がそう言うと、隣で結城氏が頷いて言った。
「時間などを確認したいのでしたら、ドライブレコーダーで確認できます。これが、データです。」
事情聴取の申し入れをしていたため、アリバイを証明する準備は完了していた。結城はさっとメモリーカードを差し出した。
「議員が車に乗り込まれた時の様子も映っているはずですから、確認してみてください。」
と、自信に満ちた表情で結城は言った。
「凶器の鉈からあなたの指紋が出たのはどういうことでしょうか?」
今度は五十嵐が、凶器の写真と検出された指紋照合の記録を見せて、訊いた。
正氏はしばらくその写真を見つめた後、戸惑いの表情を見せて答えた。
「確かに、これは私が使っている鉈だ。ただ,自宅に置いていたはずなんだが、どうして凶器に。」
「貴方が持って行ったんじゃないんですか?」と林田が少し強い口調で訊く。


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