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3-11 崩れた物証 [アストラルコントロール]

「議員、確か、あの時・・持っていかれたんじゃないですか?」
と結城氏が口を挟んだ。
「あの時?・・ああ、そうか・・確かにそうだ。2週間ほど前に、親父から薪割りを頼まれたんです。手足に力が入らないと言い出して、あの屋敷は、親父のこだわりで、風呂や暖房に薪を使うんで、私も実家にいたころにはよくやらされたものです。そのせいか、自宅にも薪ストーブを置いていて、薪割をしている。親父から頼まれて愛用している鉈を持って行ったはずです。」
五十嵐は、零士から夢で見た現場の様子を聞いていたため、加茂正氏が犯人ではないことは確信していた。加茂正氏の供述に矛盾はないと判断できた。
「苦し紛れのウソじゃないですか?二人で口裏を合わせているんじゃないんですか?」
何も聞いていない林田は、正氏の供述を否定的に聞いている。
その言葉を聞いて、正氏は少し苛立ち気味に答えた。
「親父が手足に力が入らないというんで、薪割をした。その時、そんな状態ならすぐに医者に行けと言ったんだ。それと、くれぐれも運転はするなとも。だが、親父は俺の言うことなぞ聞く耳を持たない。そのあとあの事故を起こした。被害に遭われた方には本当に申し訳ないと思っている。まあ、私だって迷惑している。だからと言って親父を殺すなどありえない。」
正氏は、思い出しながら話し、最後は交通事故の犠牲者への謝罪まで口にした。
「では、父親を殺すために鉈を持ち込んだのではないと?」と林田。
「当たり前だ。私が親父を殺すわけはない。確かに、自分勝手であんな事故を起こして許せない気持ちはあったが、今、議員としていられるのも親父の力だ。父親である以上に、議員としても尊敬していた。俺が殺す動機もない。」
正氏は反論する。
「状況と証拠から、今は、あなたが最有力の容疑者になっているんです。あなたではないという新たな証拠が必要になるんです。」
五十嵐が言う。
「とにかく、私じゃない。口論にはなったがすぐに帰った。その後、誰かが俺の鉈を使って親父を殺しんだ。」
「では、あなた以外に、加茂善三氏を殺す動機があるとすれば誰でしょうか?」
五十嵐が単刀直入に訊いた。
「さあ。なにしろ、剛腕でしたから。恨みなどいくらでも買っているでしょう。それに、あの頑固さで苦労させられた人も多いはずです。親父の周りにいた人間で動機のないのはほとんどいないんじゃないですか?・・ああ、そうだ。あの交通事故の被害者の・・。」
「議員!それはいけません。」
正氏が、それを口にした時、隣にいた結城が慌てて止めた。
「交通事故被害者の家族ですか。確か、奥さんと子供を亡くされたんでしたね。」
五十嵐が続けた。
「気持ちはわかります。私だって妻子が轢き殺されれば何をするか判らない。事故の補償はきちんと・・いや、保険の規定以上に支払っているんです。だが・・。」
正氏が口を濁すと、秘書の結城が口を挟む。
「誤解のないようにお話ししますが、事故の当事者は、善三氏です。罰を受けるべき人は議員じゃない。しかし、彼は、何度も事務所に来て、議員に謝罪と誠意を見せろと迫った。はじめは議員も対応していましたが、三度目からは私が対応することにしました。はじめのうちは補償額が少ないと言っていましたが、エスカレートし始めました。警察に相談しようと思いましたが・・実のところ、はじめに要求にこたえて、補償額とは別にお金を渡してしまった。議員の立場としては許されることではありませんから、脅迫を受けているとは通報しづらくて・・申し訳ありません。」
結城は頭を下げる。
「あいつはとんでもない奴だ。確か、無職でギャンブルに溺れているらしい。興信所を使って身元を調べた。亡くなった妻子もかなり辛い暮らしをしていたようだ。」
正氏はそう言うと、机の引き出しから興信所の調査所が入った封筒を取り出して、五十嵐達に見せた。交通事故被害者の家族と聞くと、愛する家族を失い悲痛な思いを抱えているものと思いがちだが、中にはこうした者もいる。
「私との交渉が思うようにいかないから、親父を脅しに行って、殺してしまった・・ということじゃないんですか。調べてみてくださいよ。」
正氏が、五十嵐達に言った。


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