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3-20 自殺偽装 [アストラルコントロール]

五十嵐は、加茂静香と駅前で別れて、すぐに、加茂の別荘に向かった。
「父の別荘じゃなく、結城さんの別荘なので、たぶん、報道陣は来ていないと思います。」
別れ際に、加茂静香が教えてくれた。
いったん署に戻り、山崎に事務所の様子を報告し、すぐに、山崎と五十嵐が別荘へ向かった。
「無事だと良いんだが・・。」
山崎が運転しながらぼそりと呟いた。
「どういうことですか?」と五十嵐が訊く。
「どうやら、あのSNSの発信元は、秘書の結城のようだ。」
「結城?」と五十嵐が言った。
「ああ、捜査本部の連中が情報を集めた。特殊犯罪対策室の協力もあって、色々と判った。ああ、剣崎さんたちも探ってくれたんだが・・。」
剣崎の名を聞いて、五十嵐は、ふっと零士のことを思い出していた。あれから回復したのだろうか、また、アストラルコントロールをされていないのかと心配になった。
山崎がハンドルを握りながら話をつづけた。
「結城は、どうやら、彼は加茂善三氏の子ども・・いわゆる妾の子だったようだ。その縁で、善三氏が議員時代に、事務所に入ったようだ。」
「結城が、善三氏の?」
「ああ、当初は、結城が善三氏の後継者と目されていたようだが、正氏が地盤を継いで議員になった。それに、次の選挙で正氏は、県会議員に出る予定で、市議は結城へという目論見で動いていたんだが、善三氏が反対した。孫娘に市議にしろと言っていたようだ。」
「じゃあ、結城氏は、秘書のままということに?」
「そうなるんだが・・どうもそのあたりがよくわからん。もう少し何かあるようなんだが。」
山崎は短期間のうちに結城についてかなり調べたようだった。
「あの事務所には、ほかにも職員がいたようなんですが・・何か、結城と揉めていたらしいんです。お金に関わることじゃないかと・・。」
「やはりそうか・・。SNSで正氏の件が拡散したと同時に、結城が事務所の金を横領し暴力団に流しているという書き込みも出回っていた。」
「事務所を辞めた職員かもしれません。」
山崎の運転する車が結城の別荘に近づいた。
「結城はどうするつもりでしょうか?」
「わからないが、正氏をマスコミから匿うことが目的ではなさそうだな。もしかしたら、正氏を殺害するつもりかもしれない。急ごう。」
同じころ、射場零士は、また夢を見ていた。
見たことのない風景だった。そこには、男が一人、ソファに座っていた。
「一体どうなっているんだ!」
そう叫んだのは、加茂正氏だった。
零士は、あの殺人事件で、殺された加茂善三と言い合いになっていた男だったことを思い出した。
苛立ちは半端ない。目の前にある灰皿を壁に投げつける。そこらにあるものに当たり散らし、部屋の中はまるで嵐が通過したような状態になっていた。
リビングの扉が開いて、男が一人入ってくる。
「結城!どうしてあんな記事が出た?手を打っていたんじゃないのか。」
怒鳴り散らす声に、入ってきた男は何の反応も見せず、すっと正氏に近づくと、持っていた太いロープを正氏の首に巻き付けた。
「な・に・・を・・」
正氏は抵抗しようともがいたが、男は背後に回り背負い投げの要領で力いっぱいロープを引く。グキッという鈍い音がして、正の体の力が抜けた。絶命していた。男は、そのまま正氏を背負って、隣室へ入る。大きなログ風の別荘。隣室には、自然木を使った太い梁がある。すでに、そこに太いロープをかけてから、正氏の体を持ち上げると首を入れた。それから、男は静かに部屋を出て行った。
一部始終を、零士は見ていたが、急に、意識が遠のいていく感じがした。そして、目の前の光景がぼんやりとしはじめ、周囲が暗くなってきた。
『しっかりしろ!』と、どこかで声が響いた。
『誰だ?』と零士も、意識の中で訊くと、『大丈夫だ。さあ、戻ろう。』と聞こえたような気がした。その声で、零士は目を覚ました。

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