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4-15 竹馬の友 [アスカケ外伝 第3部]

ようやく、タケル、ヨシト、トキオが再会した。
その日は、タケルは、ヨシトの軍船に乗り込んで、ゆっくり時を過ごすことにした。トキオとヤガミ姫も同席した。
ヨシトは、難波津を出てからタマソ王とともにどんなことをしたのかを話した。
「難波津を出て、中津海の多くの港を回った。それぞれの国の様子を聞き、暮らしぶりや産物なども学んだ。特に、伊予の国には、美味い果実が数多くあって、驚いた。アスカケで聞いた話し以上だったぞ。」
もはや、皇子と臣下という関係ではなく、春日の杜で共に学んだ友の関係に戻っていた。
「九重にも行った。イツ姫様にも謁見できた。穏やかで、凛とされていて、皇アスカ様と同じほど素敵な御方であった。」
「九重の国は安寧なのか?」
つい、タケルが気になって訊いた。
「ああ、国々は力を合わせていた。諍いごとは少なからずあるようだが、話し合い、助け合う事を大事にする素晴らしいところだった。」
「そうか・・一度は行ってみたいものだな。」
「俺は、さらに、海を渡り対馬まで出かけた。そこで聞いたのだが、大陸には倭国や韓とは比べ物にならぬほど、大きな国があり、素晴らしい知恵や技術があるようだ。いずれ、大陸にも渡ってみたいとも思ったんだ。」
ヨシトの話はいずれも、タケルやトキオには『アスカケ』の話に負けぬほど、興味深いものだった。
「韓国はまだ戦が絶えぬのか?」と、トキオが訊く。
「ああ、その様だ。王と名乗る者が沢山いるようだ。時折、負けた一族が、此度の様に、船で倭国へ逃れて来る。善きものばかりではない。此度の大蛇一族の様に、倭国を乱す者もいる。長門の国は、そうした者を見極めなければならぬ。タマソ様は常に注意深く周囲の話を聞き、正しく見る御力を磨いておられる。見習いたいものだ。」
ヨシトは、タマソに同行した事で、高い志を身につけたようだった。
「ヤマトの国が安寧なのは、ヨシトが大いに働いているからなのだな!」
トキオは少し濁酒に酔ったのか、幼い頃の口調に戻っていた。
「いや、まったくそうだ。ヨシトが居らねば、中津海の安全はないのだ!」
タケルも少し酔っているようだった。
トキオ(トキヒコノミコト)は、難波津から山背、丹波、因幡、伯耆など北海の国々を回った時の話をした。
春日の杜や難波津で得た知識や技術が、大いに役立ったことを感慨深く語った。そして、大蛇一族との闘いで、多くの勇者と出逢い、成し遂げられたことを喜んで話した。タケルの援軍が必ず来てくれると信じていたことも口にした。そして、トキオは、ヤガミ姫とともに生きていくことを決意した事も告白した。
「俺は、ヤガミ姫とともに、この出雲で善き国を作るために生きていくことに決めた。これが俺のアスカケだ。きっとヤマトに負けぬほど良い国にしてみせる。」
やはり、トキオは少し酔っている。
それを横で聞いていたヤガミ姫が涙を流している。
「おやおや、女神さまを泣かせてはならぬぞ!」
今度はヨシトが酔って、トキオを茶化している。
タケルは、遠く、東国での話をした。伊勢の巫女長となったチハヤの事、知多国に留まったヤスキの事、淡海の国に居るヤチヨの事、そして、大高で救い出したミヤ姫の事、そして夫婦となったことなど、詳細に話した。
「ミヤ姫って、あの、やんちゃだったミヤの事か?」
ヨシトも春日の杜で幼いミヤ姫とともに過ごしていた。
「覚えているか?いつも、タケルの後を追っていた、あのミヤだぞ!俺も、先日、福部で逢って驚いた。素敵な女性になっていた。どこか、皇アスカ様に似ているような気がしたなあ。」
「ほう・・。それで、御子はいつごろ?」と、ヨシトが訊く。
「新しき年になればすぐと聞いている。実のところ、まだ、実感がない。」
タケルが少し戸惑いながら言う。
「まあ、そんなものだろうな。」と、ヨシトが言う。
それからしばらくは、幼かった頃の思い出話が続いた。
ひとしきり話が深まったところで、ヨシトが言った。
「もう少しゆっくりしていたいのだが、明日には長門へ戻らねばならない。対馬あたりで怪しげな輩が増えていて、目を光らせておかねばならぬのだ。」
ヨシトは、残念そうに言った。
「タケル様には、もうすぐ御子がお出来になる。その時に、また、顔を出せばよかろう。なあに、船なら、三日もあれば来れるだろう。なあ、ヨシト。」
トキオがヨシトに言う。
「ああ、そうしよう。」とヨシトが答える。
タケルは、ヨシトがそう答えた時、ふと、タキが目に入った。
タキとヨシトが並んでいる姿を見て、不意に思いついた事があり聞いてみた。
「ヨシト、タキ様は一体どういう御方なんだ?」
タケルの問いに、ヨシトは急に狼狽えた。
「・・タキ様は・・。」
ヨシトが少し答えに迷っているようだった。
それを見て、隣にいたタキが笑顔を見せて答えた。
「タケル様、私は、ヨシト様の許婚なのです。私は、タマソ王の末娘。父は、私とヨシト様の婚儀を承諾しております。」
それを聞いてトキオが言う。
「なんと!それはめでたい。婚儀には、祝いの品をお送りいたしましょう。」
タケルもそれに続けて行った
「是非、一度、難波津、いや、ヤマトの都へもおいでください。きっと、皇様も摂政様も、ヨシト殿に会いたいとお思いのはず。ヨシトが、妻を娶るとお知りになれば、きっと大喜びされる。」
タケルがそう言うと、ヨシトは顔を真っ赤にしていた。
翌朝、ヨシトは、タキとともに、稲佐の浜を後にした。

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