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1-2.夕食にて [峠◇第1部]

 その夜は、夕飯に続き、住職の晩酌につきあうこととなった。
「この村は、その昔には島じゃったそうじゃ。干拓やら洪水なんぞで地続きになったが、ほとんどが船持ちの漁師でな。海辺にしか住んどらんかったが、峠道が開通して、町からよそ者が入ってきて住みだしてからというもの、上の衆だとか、下の者だとかというて、仲が悪くてなあ。それからな、山が東西にあって、東方・西の地と分かれてまた仲が悪い。今でも名残があるようじゃけど、まあ、最近は派手なもめ事はないわな。」
「というと、この村は、4つに分かれて喧嘩状態になった事もあるわけですね。」
「そうじゃ。村の真ん中の川に橋がかかっとるんじゃが、これを作る前にはみんなで助け合って人夫作業もやっておったんじゃ。いざ、出来たら名前をつける時にもめてのう。結局、四方の橋、「四方橋」という事で、まとまったんじゃが、決まるまでには、大変じゃったのう。」
「何か事件でもあったんですか?」
「いやいやいや、そんなことは・・・・。それより、あんたは何を調べておるのかのう。」
「いえ、他人から見ればゴミみたいな事です。自分の因縁みたいなものを見付けたくて・・・。」
「因縁とは難解じゃな。この村にその因縁があると言うことかの。」
「たぶん、あると信じてきました。ここには、玉という字の付くものが多いですね。さっきの川も「玉の川」だし、この寺も「玉林寺」。確か、山の中腹には「玉祖神社」というものありますよね。海岸の先には「玉付崎」というものある。何か言い伝えがあると思うのですが。」
「それは、昔の言い伝えでな。玉付崎に流れ着いた舟に、赤子が乗っていた。その子は、錦の着物に包まれていたことから、村人が、高貴な人の落とし子と思いこんで、大事に育てた。やがて、青年になり、村の長の娘と恋に落ちてのう。そのことを知った村の若者達は快く思わず、邪魔をし始めて、ついには、青年を殺してしもうたそうじゃ。そのことを知った娘も玉付岬から身を投げたそうじゃ。」
「そんな悲恋の物語があったんですか。」
「話には続きがあってなあ。その娘が身を投げた後、天変地異が起きたそうで、村人達は、青年と娘の恨みじゃと思い、娘が身を投げた岬にあった大岩をご神体として、玉祖神社を造り祀ったという事じゃ。」
「やはり青年は、高貴な方の落とし子だったのでしょうか。」
「それはわからんが、、、さて、夜も更けた。寝るとしよう。ゆっくり休むがいい。」
そういうと、住職はさっさと立ち上がり住居のほうへ引き上げていった。
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