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1-9.住職との2日目の夕食 [峠◇第1部]

 夕方まで住職は帰らなかった。
 それまでの間、彼は本堂で、訊いたことなどをまとめることにした。
 彼が持ってきた鞄の中は、これまで彼が調べて集めた資料が詰まっていた。ここ数年はほとんどが神社に関連するもので、それも「玉」と名の付く神社に限っていた。そして、それらの資料の最後のページにはいずれも「我が因縁との関わりなし」と記されていたのだった。
 
 夕日で東方の集落が照らされる頃、住職は帰ってきた。
 帰り着くなり、住職は本堂の彼に声を掛けた。
 「昼食はどうされた。」
 「はい、今日は村の様子見で一回りした途中で、にしきやでパンを買って済ませました。あ、しばらくはこの調子で過ごしますからご心配には及びません。」
 「それはすまなんだなあ。いや、今日は峠向こうの香林寺の住職に相談事があってな。ついつい長居をしてしもうて。すぐに夕飯をこしらえるからのう。」
 「お気遣いなく。お手伝いしましょうか。」
 「いやいやいつもの事じゃ。それより何か収穫はあったかの。」
 「まあ・・・」
 「この村の衆は、よそ者を嫌うからのう。」
 それだけ言うと、住職は夕飯の準備の為に住居のほうへ入っていった。

 月が顔を出す頃には支度も終わり、昨日同様に彼と住職は夕食についた。
 彼は、昼間の疑問を住職に尋ねるため、岬での怜子と出会ったことやにしきやで訊いた話、などをした。
 「そうか、にしきやの店主はそんな事を話したか。」
 「ご住職はそのときには?」
 「儂は、その事故の数年後にこの村に来たのじゃ。その事故の事は村のものもあまり話たがらんので詳しくはしらんがの。」
 「そうですか」
 「確か、事故のすぐ後に、亡くなった青年の後を追うように女が岬から身投げしたということじゃ。どうも、恋仲だったらしく、警察が事故として片づけた後もあれは事故じゃないと言うておったそうじゃ。まあ、訊いた話しじゃから本当のことはどうかしらんが。」
 「その事故のあとも終いの儀式はやっているんですか。」
 「ああ、翌年も、あれは事故じゃから気をつければ問題はないと言うて、剛一郎が続けたようじゃ。」
 「剛一郎というのは?」
 「水産会社の社長じゃ。漁師連中の親分みたいなもんじゃから、あいつがやると言うたら下の若いものはみんなやるからのう。下のものがやるなら、他の部落のものも黙っとらん。事故の前よりも盛んにやるようになったんじゃ。」
 「ひとつ教えていただけませんか。下の顔役が玉水家なら、東方は玉城家、西の地は玉穂家ですよね。裏の墓を見てそう思ったんですが。」
 「そうなるのう。それぞれ代々の顔役でな、村のまとめ役でもあり、いろんなもめ事の原因でもあるがの。」
 「上の衆の顔役はどこの家なんですか。」
 「そうじゃのう。儂がこの寺に来たときにはもう墓も無かったし、何より上の衆も峠の向こうの人間が増えたから、そういう事が廃れたのかもしれんがのう。」

 彼の疑問の肝心な部分は結局わからずじまいであった。

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はな

おはようございます
プロローグ読み終わりました
これから何が起こるのか、因縁とは何なのかがとても気になります
by はな (2010-09-16 09:04) 

苦楽賢人

はなさん、コメントありがとうございます。
これ(峠)を書き始めた時は、短い話になるはずでしたが、プロローグを書いている途中で、何だかいろんな話が浮かび始めて、結局第2部まで広がってしまいました。素人の書き物ですので、文章表現は中学生レベルの稚拙なものです。そのあたりは余り期待しないで下さい。
人の縁・因縁を強く感じていた時期に書き上げたので少し内容的には暗いかもしれませんが、気楽に読んでみてくださると嬉しいです。

現在、同調(シンクロ)を書き始めています。こちらはもっと気楽に書いてます。

by 苦楽賢人 (2010-09-16 09:12) 

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