2-1.焼け跡 [峠◇第1部]
翌朝、彼は昨日の疑問を晴らすために上の方を訪ねてみることにした。
ついでに、玉置神社も見て見るつもりで、住職には夕食までは帰らない事を伝えて寺をでた。
彼は、一旦、四方橋まで行き、たばこ屋の前を通って薬師堂まで行き、昨日とは反対に回ってみることにした。
上の地区は、真新しい建物や洋風の家などが立っていた。車庫や表札もあり、殆どの家はこの村の時代錯誤の雰囲気とは無縁な感じがした。確かに今更、村の顔役の存在など必要としない様であった。
しばらく行くと、家並みが途切れ目の前に農業用のため池が見えた。すでに刈り入れ時期直前と言うこともあり、池には水も少なくなっていた。池の土手には、老人が座っていて釣りでもしている風であった。
ため池沿いに道は曲がり、峠の方へ上っていた。
峠を超える道との分岐点まで来たとき、山手側にひときわ大きな屋敷跡があるのが見えた。一見すると森のように見える屋敷跡は、道から一段高いところにあり、周りは古い石垣で囲まれるような構造となっていた。
彼は、昨日の疑問の答えがわかると直感し、この屋敷に足を踏み入れた。
森の正体は、楠の木が生い茂ったものであった。既に建物は無く、雑草が伸び放題であった。
「やはり、随分昔に廃れてしまったみたいだな。」
そうつぶやきながら、深い草叢に分け入った。敷地のほぼ中央にある楠の木に近づくと、何かに躓いた。
草を分けて見ると、そこには黒く焦げた柱が横たわっていた。柱の太さは1尺もあろうかと思えるほどで、屋敷の大黒柱であったものらしかった。周囲をよく見ると、他にも黒く焦げた柱や壁跡などがあった。
「ここは廃れたのじゃなく火事で消失したんだ。」
しばらく考え込んでいた時、
「そこで何してるんだ。」
咎めるような声がした。振り返ると、この村の駐在が立っていた。
「お前は何ものだ。昨日もタバコ屋の婆ちゃんも気味の悪い男が話しかけてきたと言っていたし、漁師連中も目つきの悪い男がうろうろしているとか言っていたが、貴様の事か。そんなところで何をしているんだ。」
初めから悪人を見るような眼で、今にも捕まえてやろうかというくらいの勢いで尋問した。
「僕はフリーライターで福谷と言います。」
彼は最低限の必要事項を伝えるかのように短く応えた。
彼は、若い頃から警官にはあまりいい思い出はなかった。
「勝手にこんなところに入り込んで何をしているんだ。」
「すぐに出ていきますから。」
彼は、草むらを引き返し警官の横を抜けて道にでた。
「ちょっと待て。何をしにこの村に来たんだ?」
警官が彼の肩を掴もうとした瞬間、大きなクラクションが鳴った。
二人とも驚いて一瞬動きが止まった。
「福谷さん、こんにちは。」
昨日出会った怜子が車から声を掛けたのだった。
「やあ、君は。」
「どうも、お待たせしました。」
彼には何のことだか良くわからないと言う表情をしていると、
「ごめんなさいね。なかなか抜け出せなくて。30分も遅刻ね。」
彼女は、待ち合わせの約束をしている事をわざと駐在に伝えて、
「駐在さん。こちらは福谷さんといってフリーライター。この村を題材に本を書くんですって。昨日、昭さんが紹介してくれたの。」
「昭の知り合いですか。」
「さあ。行きましょう。時間があまりないの。急がなくっちゃ。」
そう言うと彼女は車に乗り込んでエンジンを掛けた。
「早く乗って。それじゃ、駐在さん。」
彼女の車は、彼を乗せて峠を上っていった。
ついでに、玉置神社も見て見るつもりで、住職には夕食までは帰らない事を伝えて寺をでた。
彼は、一旦、四方橋まで行き、たばこ屋の前を通って薬師堂まで行き、昨日とは反対に回ってみることにした。
上の地区は、真新しい建物や洋風の家などが立っていた。車庫や表札もあり、殆どの家はこの村の時代錯誤の雰囲気とは無縁な感じがした。確かに今更、村の顔役の存在など必要としない様であった。
しばらく行くと、家並みが途切れ目の前に農業用のため池が見えた。すでに刈り入れ時期直前と言うこともあり、池には水も少なくなっていた。池の土手には、老人が座っていて釣りでもしている風であった。
ため池沿いに道は曲がり、峠の方へ上っていた。
峠を超える道との分岐点まで来たとき、山手側にひときわ大きな屋敷跡があるのが見えた。一見すると森のように見える屋敷跡は、道から一段高いところにあり、周りは古い石垣で囲まれるような構造となっていた。
彼は、昨日の疑問の答えがわかると直感し、この屋敷に足を踏み入れた。
森の正体は、楠の木が生い茂ったものであった。既に建物は無く、雑草が伸び放題であった。
「やはり、随分昔に廃れてしまったみたいだな。」
そうつぶやきながら、深い草叢に分け入った。敷地のほぼ中央にある楠の木に近づくと、何かに躓いた。
草を分けて見ると、そこには黒く焦げた柱が横たわっていた。柱の太さは1尺もあろうかと思えるほどで、屋敷の大黒柱であったものらしかった。周囲をよく見ると、他にも黒く焦げた柱や壁跡などがあった。
「ここは廃れたのじゃなく火事で消失したんだ。」
しばらく考え込んでいた時、
「そこで何してるんだ。」
咎めるような声がした。振り返ると、この村の駐在が立っていた。
「お前は何ものだ。昨日もタバコ屋の婆ちゃんも気味の悪い男が話しかけてきたと言っていたし、漁師連中も目つきの悪い男がうろうろしているとか言っていたが、貴様の事か。そんなところで何をしているんだ。」
初めから悪人を見るような眼で、今にも捕まえてやろうかというくらいの勢いで尋問した。
「僕はフリーライターで福谷と言います。」
彼は最低限の必要事項を伝えるかのように短く応えた。
彼は、若い頃から警官にはあまりいい思い出はなかった。
「勝手にこんなところに入り込んで何をしているんだ。」
「すぐに出ていきますから。」
彼は、草むらを引き返し警官の横を抜けて道にでた。
「ちょっと待て。何をしにこの村に来たんだ?」
警官が彼の肩を掴もうとした瞬間、大きなクラクションが鳴った。
二人とも驚いて一瞬動きが止まった。
「福谷さん、こんにちは。」
昨日出会った怜子が車から声を掛けたのだった。
「やあ、君は。」
「どうも、お待たせしました。」
彼には何のことだか良くわからないと言う表情をしていると、
「ごめんなさいね。なかなか抜け出せなくて。30分も遅刻ね。」
彼女は、待ち合わせの約束をしている事をわざと駐在に伝えて、
「駐在さん。こちらは福谷さんといってフリーライター。この村を題材に本を書くんですって。昨日、昭さんが紹介してくれたの。」
「昭の知り合いですか。」
「さあ。行きましょう。時間があまりないの。急がなくっちゃ。」
そう言うと彼女は車に乗り込んでエンジンを掛けた。
「早く乗って。それじゃ、駐在さん。」
彼女の車は、彼を乗せて峠を上っていった。
2009-09-14 16:27
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