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2-4.太平山 [峠◇第1部]

 食事を終え、コーヒーを飲んでいると、怜子が急に、
 「ねえ、このあと、予定は無いんでしょ。」
 「まあね。」
 「それなら、少しつきあってよ。久しぶりに父と離れて自由な時間なんだから、すこし遠出もしたかったの。」
 「それじゃ、おつき合いしますか。」
 「こんなきれいな女の子が誘っているんだから、断る理由はないはずでしょ。さあ、行きましょ。」
 レジで昼食代を払い、外に出ると、彼女は車のキーを彼に投げた。
 「運転して。たまにはいい男の横に乗ってみたいの。」
 冗談混じりに彼女は笑いながらそう言うと助手席にさっさと乗り込んだ。

 車は海沿いの産業道路をしばらく走った後、駅に抜ける大通りに出てきた。
 この町は昔の天満宮の門前町として栄えたところで、今でも秋には大祭が催される。アーケードを持つ商店街が今でも健在で、郊外のショッピングセンターと両立しているようだった。
 駅を通過すると、国道に入った。
 「ねえ、この町にはロープウェイがあるのを知ってた?。」
 「へー。この先に見える太平山にあるのかい。」
 「そう、そこにいきましょ。」
 
 町を抜けるとすぐに田園風景になる。国道の両脇には、長距離トラックを目当てにした大型のガソリンスタンドや食堂・ドライブインが点々とあるくらいだった。
 看板を目印に車は山に向かった。中腹くらいまであがったところに、ロープウェイ乗り場があった。ウィークデーでもあり、客はほとんどない様子だが、係員が切符切りから操作までしているところを見ると、今では大した観光スポットでもないようだった。
 駐車場に車を止め、乗り場に向かった。
 山頂まではほんの一〇分ほどで着く距離だった。
 「上はどうなっているんだい。」
 「そうね、展望台と花畑くらいかしら。」
 「ここには良く来るの?」
 「ううん。久しぶり。小さい頃には父に連れられて何度か来たけれど。」

 ゴンドラが頂上に到着した。
 町中ではまだ残暑が厳しかったが、さすがに頂上に上がると肌寒いくらいだった。
 彼女の言うとおり、花壇が申しわけ程度にある位で、そう何度も訪れるようなところでもなさそうだった。
 「展望台にいきましょう。」
 そう言うと、彼の手を引いて進もうとした。
 彼女の手はひんやりしていた。彼は妙に意識して動揺するのがわかった。
 しかし、そんな事を彼女は微塵も気にせず、さらに、身を寄り添うように腕を組んできた。
 「こうしてると暖かい。」
 喫茶店のケンの話では、プライドの高いお嬢様という事だったが、そんな雰囲気は全くなかった。むしろ、無邪気に甘える子どもの様であった。
 二人はそのままの姿勢で、展望台に上った。

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