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3-2,祐介との約束 [峠◇第1部]

昭の死は幸一にとっても、ショックだったが、最後に昭が言っていた「明日の昼過ぎににしきやで会おう」という言葉がどうにも引っかかっていた。
にしきやを出て、脇にあるバスの回転場でしばらく待つ事にしたが、午後3時を過ぎても誰も来なかった。
 
幸一は、一旦、玉林寺へ戻る事にした。

住職は、昭の通夜の準備で玉穂家へいるようだったので、勝手に夕食を済ませる事にした。
夕食を終えたとき、幸一は「やはり、もう一度、夜の市場に行って誰かに話を聴こう」と考え、寺を出た。

 途中、西の地にある玉穂家の前を通ってみたが、通夜の準備で、人の出入りはあるものの、皆、沈黙していた。
 昼間の婦人の「人殺し」の一言もあり、とても門を潜れる状況ではなく、素通りした。
 
 市場についたが、予想通り、灯りはついておらず誰もいなかった。
 仕方なく、寺へ戻ろうと引き返したが、また玉穂家の前を通るのは気が引けて、海岸沿いから東方を回って帰ることにした。

 東方は昼間とは随分様子が違っていて、塀が高いせいか、夜道は暗く、足元がおぼつかなく不安だった。
 それでも途中までくると、玉城家の前だけは明るかった。立派な門構えで、外灯も点いている。

 門の影からふいに声を掛けられた。
「福谷さんだよね。」
 声の主は祐介だった。
「さっき、玉穂家の前で、市場へ向かっているのを見たものだから、ひょっとしたらこの道を通るんじゃないかと思って。」
「ああ、やはり、玉穂家の前を通るのは気が引けてね。」
「人殺しはないよな。昭のおふくろさん、昭を溺愛していたからな。僕も、さっき顔を出したけど、酒を飲ませたお前たちのせいだって怒鳴り散らされたんだ。悲しいというよりヒステリックで、もう、何を言っても聞かない感じだったよ。まあ、気持ちはわかるけど。」
やはり、顔を出さなくて良かったと幸一は思った。
「なあ、昭のやつ、君に何か話してなかったかい?」
「・・・」
「相談があるような事、言ってなかった?」
「ああ、今日の昼にみんなに声を掛けているからにしきやに来てくれと言っていたが・・」
「そうか。やっぱりな。実は・・」
と言いかけた時、家の中から女性の声がした。
「お客さんがいらっしゃるのかい?そんなところじゃなく、入ってもらいなさい。」
どうやら、祐介の母のようだった。
「悪いが、今は、これ以上は無理だ。そう、明日にでも。そうだ、山の畑に来てくれないか。その時に詳しい話をするから必ず来てくれ。・・」
「一体、何をしようと言うんだ?」
「いや・・その時に話すから。それと、僕に会ったことは誰にも言わないでくれ。じゃあ。」
そう言い放して、祐介は門の中に消えていった。

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