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3-4.みかん畑 [峠◇第1部]

翌朝、幸一は、祐介との約束があり、みかん畑に向かう事にした。
途中、タバコ屋の前を通った。タバコ屋のおばあちゃんは店先に座っていたが、先日のこともあり、声をかけても邪険にされるのはわかっていたので、自動販売機でホープを買い求め、軽くお辞儀をして通り過ぎた。
住職から聞いたとおり、薬師堂から東方へ向かう途中、山道の分岐があった。教えられなければ通る事もない道である。
道の途中、両脇はほとんどがみかん畑であった。
どこにいるのかわからないまま、10分ほど歩くと、大きな倉庫があった。農機具やみかんを入れるコンテナ等が置かれていた。倉庫の中に人の気配がしたので幸一は声を掛けてみた。
「祐介君ですか?福谷です。」
倉庫の暗闇から
「祐介なら3つ上の畑にいるんじゃないかのう」
声の主は、祐介の父であった。

「初めまして。福谷幸一です。祐介さんに畑にくるよう言われてまして・・」
「ああ。お前さんか。まだこの村におったのか。」
「ええ、すみません。」
「昭があんな事になって、よくここにいられるもんじゃ。警察じゃ、事故と言うとるようじゃが、昭は車の運転は間違わん。お前さんが何かしたんじゃろ。」強く咎めるような口ぶりだった。

「すみません。ですが、私も、警察に事故というのはおかしい、もっと調べてくれとお願いしたんです。私を送ってくれた時は確かに酒を飲んでいましたがしっかり運転していました。・・・あんなところで事故を起こして溺死するなんて、やはりオカシイと思います。でも、私は何もしていません。」
「そうかね。前々から飲酒運転はいかんと前々から言っておったんじゃが。ところでお前さんは何を調べとるんじゃ?」

この人はこの村の生まれだ、とすると、少し情報がもらえるかもしれないととっさに考え、幸一は目的を話した。

「自分探しか。贅沢な事だ。今の自分が一生懸命生きていればそれでいいじゃろうに。」
「母が、こんな事を言ったんです。『玉は村の守り神』この村は玉と付くものや人が多い。きっとここが私の故郷なんじゃないかと思うんですが・・」
「そんな村はたくさんあるじゃろうが・・」
「そうなんです。あちこち回って調べてきたんですがなかなか・・。母がせめて地名でも覚えておいてくれたら・・」
「母御の名前は?」
「はあ・・・・・昔、事故か何かで、一度記憶を無くしているんで、昔の本当の名前かどうかわからないんですが、和美と言います。」
この言葉を聴いて、祐介の父は顔色が変わった。そして、厳しい口調で
「そ、そんな名前は聞いたこともない!もう離す事はない。一刻も早くこの村を出て行ったほうがええ。」
そう言い放して、下の畑に足早に降りていった。

 幸一は、3つ上の畑に向かってみた。
 その畑は、ちょうど尾根の中ほどに開けていた。日当たりがよく海風が吹き抜けて気持ちよかった。よく手入れされており、立派に張った枝の先には、まだ青いながらも拳ほどのみかんがたくさん実をつけていた。あと1ヶ月もすれば収穫を迎えるだろう。
幸一は、祐介の姿を探してみた。みかんの木の陰で見通しはよくない。
「祐介君!」
何度か呼びかけてはみたものの返事はなかった。畑を間違ったのかと思い、隣の畑にも回ってみた。しかし姿は見えなかった。
「約束をすっぽかすような感じには思えないんだが・・・」
仕方なく、もときた道を戻りかけた時、畑の下のほうでキラリと光るものが目に入った。何だろうと目を凝らしてみると、谷の下に何かが横たわっているようだった。

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