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3-6.疑惑 [峠◇第1部]

 救急車が去ってから、ようやく皆、正気に戻ったようだった。

祐介の父がいきなり幸一の胸座をつかんで、
「お前がやったんだろ!お前が祐介を!」と詰め寄った。
怜子が間に入って何とか止めた。

「おじさん、馬鹿なこと言わないで!」
「いや、お前のせいだ!お前がこの村に現れなければ・・」
祐介の父はそこに座り込んだ。

そうしているうちに、例の駐在が現れた。
警察本署からも数人の刑事も同行していた。駐在は、同行の刑事を簡単に紹介したところで、一人の刑事が
「玉城さん、事故の様子を教えてください。」と切り出した。
玉城氏は、開口一番、「こいつがやったんだ!」と叫んだ。
刑事は、落ち着いた口調で改めてこう言った。
「これから現場検証をします。事故と事件の両面でしっかり調べますから。まずは状況を教えてください。」
怜子が口を挟んだ。
「第一発見者はこの人です。」と幸一を指差した。
「状況を話せるのは彼だけです。」
刑事は、怪訝そうな顔をしたが、駐在が、改めて、怜子や幸一を刑事に紹介した。
幸一は、この倉庫で玉城氏に会ってから、畑に向かった事。そして、谷の下に横転している運搬機を見つけて、祐介を発見した事等正直に話した。

「だいたい、何の目的で畑に行ったのかね?」刑事が聞きなおした。
「祐介さんと約束があって、畑に来てくれと言われたので。」
刑事は、なにやら手帳にメモしながら、これから現場に行くので案内するように言われた。

事故現場では、畑の上のほうや落下地点の距離を測ったり、運搬具の状況などを写真に撮ったりした。
幸一たちには聞こえないところで刑事が何か相談しているのがわかった。
そして、一人の刑事が
「これは、どうも事故のようだね。ほら、ここの畑の角にタイヤがスリップした跡がある。祐介くんは、運転を誤って転落したようだ。この村ではこれまでも同じような事故はあったからね。一応、持ち帰ってから正式に判断する事になると思うが・・。えーと、福谷さんでしたか、とりあえず、連絡の取れるところはありますか?今後もお聞きする事があるかもしれないので。」
幸一は、玉林寺に滞在している事を伝えた。もう一人の刑事が
「念のため、この件が正式に事故と判断されるまではこの村を出ないように。いいですね。」
やや強い口調で言った。

幸一は、何だか、犯人扱いされているようで気分が悪かった。

刑事と駐在が帰った後、玉城氏はひとり病院へ向かった。
残された、幸一と怜子はしばらく無言だった。

「怜子さんは、玉城家にいたのかい?」幸一が沈黙を破った。
「ええ、ちょっと奥様に用事があって。」また沈黙になった。

「どうしてこんな事故が続くの?あなたが来てから続けざまに。それにどうしてあなたは事故のそばにいるの?本当にあなたは何もしていないの?」
怜子は、二つの事故と幸一の存在で気が動転して、吐き出すように続けた。
そして、はっと我に帰ったように、幸一の顔を見た。
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。混乱していて。私、もう帰ります。」
そういうと、足早に、去っていった。

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