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3-9.発覚 [峠◇第1部]

 怜子のメモを頼りに、幸一は、市場を抜けて「にしきや」へ向かった。
 市場は、朝の競りを終えて、片付けの数人が残っているだけで、閑散としていた。
 市場のはずれから港の方へ向かう波止場に、住職の姿が見えた。誰かを探しているようであった。
 幸一は、住職に声をかけた。
「ご住職!」
「おお、福谷さん。」
「こんなところにいらっしゃるなんて珍しいんじゃないですか?今日は昭さんの葬儀じゃないんですか?」
「ああ、いや、葬儀の事で、組合長に話があったんじゃが、留守じゃったので、港に行けば会えるかと思うてのう。お前さんはどうしたんじゃ。」
「ええ、剛一郎さんに少し話が聞ければと伺ったんですが・・」
「門前払いかの?」
「ええ、かなりご立腹で。」
「そうじゃろう。お前さんが来てから事故ばかり起きておるからのう。何にもなかったところに毎日毎日パトカーが走るようじゃ・・のう。これからどうする?」
「ええ、ちょっと、にしきやへ行ってみようかと思って。」
「おお、あそこの女主人はおしゃべりじゃから、何か聞けるかものう。・・じゃが、にしきやは、玉水家の身内みたいなもんじゃから、気をつけなされ。」
「え!身内って?」
「知らんかったか。まあそのうち聞くじゃろうから。わしは急ぐんで・・」
「はい。ありがとうございます。」

幸一は、住職と別れて、再びにしきやへ向かった。
店に入ると、女主人-和夫の母が、いつものようにレジ台の横に座っていた。
店に入るなり、
「また事故かね。あんたが来てから、騒がしくなったね。」
と嫌味を一言言ったが、他の人とは違い、犯人扱いではなかった。むしろ、かばってくれているようにさえ感じた。
「あの、和夫さんは?」
「2階におるじゃろう。寝とるかもしれんけど。もうじき、昭の葬式に行かんといけんから起こしてやって」と、顎で階段を示した。
「すみません。失礼します。」と挨拶して、幸一はぎしぎし音を立てる階段を上った。

2階の突き当たりにドアがあった。ノックをしたが返事がなかったので,声をかけながらそっとドアを開いた。
和夫はベッドでうつぶせになってぐっすり眠っていた。
幸一は、部屋を見てびっくりした。そして、市場で言った怜子の言葉の意味がわかった。

部屋の壁一面、アイドルのポスター。本棚にも写真集とかサイン色紙とか溢れていた。誰ということなく、最近のアイドルと思しきほとんどが集められているようだった。しかし、意外にも、きれいに整理されている。さらに驚いたのは、そういう中で、机の上に1つだけ額縁に入った小さな写真があることだった。
特別な存在になっているとすぐにわかった。写真は、少し前に撮られたらしい、怜子のものだった。和夫の頭の中がすべてわかるようだった。
幸一は机の上に小さなメモを見つけた。〔祭殺人事件〕と書いてあった。

幸一は、これが祐介や昭たちがやろうとしていた事だと直感した。そして、和夫を起こした。
「和夫君、和夫君!起きてくれ!」
眠気眼のまま、和夫はベッドに座った。
「和夫君、このメモの事、教えてくれませんか!」
「・・ふぁあ・・・何だよ!勝手に部屋に入ってきて。いままでこの部屋に他人を入れた事はないんだぞ!」
和夫は不機嫌だった。幸一は、そんな事には構いもせず、同じ質問を続けた。
「このメモの事です。祭殺人事件ってどういう事ですか。」
幸一の剣幕に押され、和夫は少しきょとんとした顔になった。
「いや・・・俺にも良くわからないんだよ。30年くらい前の祭の事故は殺人事件だった聞いて真相を調べようって言う話だよ。俺はそれ以上は知らないんだ。そう、怜子ちゃんがこのメモをくれたんだ。そう、昭の事故の前の日、市場から帰りにさ。明日になったら詳しく話すからって・・」
「じゃあ、怜子さんが知っているんですね。」
「ああ・・でもさ・・お前には関係ないだろ。」
「いや、昭さんも祐介さんもこのことで相談したいと言ってたんです。それに、あんな事になって、真相がわからないし、気になるんですよ。それに、今回の事故はどうも偶然にしては出来すぎてると思いませんか?」
「じゃあ、これは事故じゃなくて誰かが起こしてるって言う事かい?」
「いや、確信はありません。でも、村の人も、事故じゃなく事件だって感じているはずですよ。よそ者の僕が犯人じゃないかって言う感じで見られていますし。」
「そうだな。お前が来てから、おかしなことが続いているのは事実だもんな。」
「祭の事故と今回の事故はなんらかの関係があるんじゃないでしょうか。」

そこまで聞いて、和夫は少し思案しているようだった。
そして、
「怜子ちゃんに聞いてみるしかないだろうな。今から昭の葬式だから、一緒に行ってみよう。」と口にした。
幸一は、玉水水産の一件を和夫に話した。

「そうか、わかった。怜子ちゃんにあったら聞いておくよ。」
「何かわかったら教えてください。」
そう言って、幸一は、にしきやを後にした。
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