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4-1.集合 [峠◇第1部]

朝日が昇った。台風一過の晴天であった。
二人は立ち上がると、身を乗り出して、ゆっくりと崖を上っていった。
まだ5時を少し回ったところであった。村人はまだ起き出していない。できるだけ誰にも会わないよう注意して、二人は東方地区から上地区を抜けて峠道に向かった。
村にいるとまた犯人に動きを知られてしまうかもしれない。そう考えて、峠道を降りて町へ向かった。

「ケンの喫茶店に行きましょう。あそこなら大丈夫。」
昨日、あれだけ危険な目に遭いながら、怜子は気丈だった。

峠を降りたところで、公衆電話からケンの喫茶店に電話を入れた。
早朝、ケンはまだ眠っているに違いなかった。

「もしもし、ケン?」
「あ・・・ああ。ナンダイ!こんな朝っぱらから・・・」
「ねえ、助けて欲しいの・・」

それだけの会話だったが、ケンはすぐに、峠の下まで迎えにきた。
喫茶店に向かう途中、昨日のいきさつやこれまでの事をケンに話した。

「そうか・・なら、みんなに声を掛けて相談した方がいい。」
ケンは真面目な顔で言った。そして
「おい!お前ら、大丈夫なのか?朝まで一緒にいたんだろ?」
と2人の仲を勘ぐりながら、にやりと幸一の顔を見たが、幸一は気づかぬ振りをして、すぐに目をそらした。

ケンは喫茶店に着くと、にしきやの和夫と駐在に連絡して、すぐに来る様に言った。
駐在は、理由を尋ねたが、とにかく来ればわかると言って呼びつけた。
玉水水産の史郎にも連絡しようと考えたが、剛一郎に知られるのは今は都合が悪いと怜子が言うので止めた。

1時間もしない内に、和夫と駐在はやって来た。
「怜子ちゃん!無事だった?どこにいたの?昨日の夜から姿が見えないからって社長が躍起になって探してたぞ。」
和夫は、玲子の身を案じての一言。和夫も昨夜は殆ど寝ていないような顔をしている。
怜子は昨日の出来事を話した。
「幸一君!全て君のせいだ!君が来てからろくな事がない!疫病神だよ!」
攻め立てるように和夫は言った。
「和夫君、すまない。」幸一は謝ったが和夫は治まらない様子だった。
「幸一さんが来てくれたおかげで無事だったのよ。それに、和夫ちゃんが、もっと早く幸一さんに岬の約束を伝えてくれていれば・・」
怜子が幸一をかばうような言い方をするので、和夫は拗ねてしまった。
駐在が、「とにかくいきさつを話してください。」とそこへ割り込んだ。

怜子は、これまでの事故は偶然ではなく誰かが意図的に起こしている事、それはきっと30年程前の祭の事故と何らかの関係がある事等を説明した。

「でも、警察ではいずれも事故という見方をしているんだし、だいたい、福谷さん以外に怪しい人物はいないわけだし、30年前の事故との関連だって、確証はないんでしょう?」と切り替えした。
「だから、ダメなんだよ。駐在は駐在だな。おまえは帰っていいぞ。」
ケンは嗜めるような口調で言った。
「だから・・僕は、今の状況では、警察としては動けないって言ってるんだ。確たる証拠がなければ、捜査なんかできないんだ。」
駐在は興奮気味にまくし立てた。
「私が崖から突き落とされたのは事実なのよ!」
「それだって、福谷さんの仕組んだ事かもしれない。とにかく、君が一番怪しい。」更に続けた。
「てめえ!いいかげんに・・・」とケンが駐在に殴りかかりそうになったのを幸一は止めた。

「いや、そうなんだ。全てが、僕がここに来てから起きているわけだし、僕と何らかの関係があるはず。いや、僕はやっていないよ。でも、そういう風に見せている事は事実。でも、やるならもっと露骨にできるはず。全てが事故を装っているのが不自然なんだ。」
「そうだよな。福谷さんに罪を着せるのなら、堂々と事件にしたほうが良い訳だし、わざと事故に見せる意味がない。」ケンはちょっと冷静になっていた。
「昭から何か聞いてなかった?」
怜子は、ケンや和夫に尋ねた。
「いや、ただ、祭の事故の真相をもう少し詳しく知りたいとは言っていた。」
和夫が機嫌を直して言った。
「ああ、それなら、僕も祐介君から頼まれた。あの祭の事故の記録を見れないかって。」駐在も続けた。
「それで?」ケンが改めて駐在に質問した。
駐在は口篭もった声で、
「いや、それは、・・・古い事故の記録を探すのは結構大変でね。それに、そんな興味本位の頼まれ事にはね。」
「だから、駐在は駐在だってんだよ。」ケンがまた苛めるように言った。

怜子が、みんなの気持ちをまとめるように
「ねえ、ここまで来たらやはりしっかり調べて犯人を突き止めましょう。昭や祐介、啓二がいなくなってるのよ。ひょっとしたら、もっとひどい事が起きるかもしれないでしょ。ねえ。」
と言ったあとで、幸一の目を見つめた。
幸一が怜子の気持ちに応えるように続けた。
「事故に見せかけているのは、ひょっとしたら、何か暗示かもしれない。祭の事故が殺人だと仮定すると、復讐のようなものかも・・・そう、玉穂・玉城・須藤・玉水家と祭の事故のつながりがあるのじゃないだろうか?」
「それか、祭の事故を調べようと計画して殺されたのなら、事故を暴かれると都合の悪い人がやってるとも考えられるな」ケンも続ける。
「それなら、祭の事故の事をしっかり調べなくちゃ。」和夫も乗ってきた。
「わかったよ。警察に残っている記録を調べてみよう。昭君たちの事故も見てみよう。警察内部の資料は僕にしか見れないからね。」と駐在も協力することになった。

怜子が、
「ケンは、喫茶店にくるお客さんから、村の外の人で祭の事を知っている人がいないか調べてみてよ。村の中ではなかなか話してくれないから。和夫ちゃんは、お母さんに。あなたのお母さん、とにかく村の情報源だから、無理にでも教えてもらって!知らなくても、誰に聞けばいいかとかもね。」
「ええ?お袋に?・・・」
「嫌なの?じゃあ、机に飾ってある私の写真、返して!」
「え?え??そんなことなんで知ってるの?・・幸一君か?しゃべったんだな!」
「幸一じゃないわ。前から知ってるわよ。まあね、きれいな写真だから許してあげるけど。」
「怜子ちゃんは?」和夫が話を切り替えた。
「私は、玉城家の奥様や玉穂家の奥様をそれとなく探ってみるわ。幸一さんはお寺のご住職にね。」
「なあ、怜子、岬の事故のことはどうするんだい?」
ケンが気になって尋ねた。
「そうね。お父さまが余計な心配をして変に動き出すと厄介だし、幸一さんに何をするかわからないから、当分は秘密にしておきましょう。」
集まった青年達が、本格的に、祭の事故と今回の事故の関連、犯人を突き止めることを誓った。
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