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2-4-6:病院 [峠◇第2部]


 翌朝、ご主人が和美の部屋に来て、
「病院へは午後に行く事にしよう。いや、昨日、院長に電話したんだ。まあ、凡その事情は話したんだが、そういうことなら午後の休診中に検査をしようと言ってくれたんだ。わがままついでに、院長が午後、車で迎えに来てくれるそうだ。それに乗って、裏口から入ればいいだろうってね。」
「そんな・・・ありがとうございます。」
「良いんだよ。味方になるって言っただろう。ああ、院長も味方になるってさ。心強いね。」

午後、黒塗りのハイヤーが村田屋の前に停まった。
窓を開けて、中から、昨日の大木院長が顔を出した。
和美は、村田屋のみんなに頭を下げてから、車に乗り込んだ。
「どうだい?痛みはないかい?」
院長は優しく訊いた。
「ええ、まだ、腕と腰は少し痛みますが、それほどではありません。ありがとうございました。」
「良いんだよ。これから、病院でしっかり検査をしよう。」
「あの・・どこか悪いところがあるんでしょうか?」
「は、はっ、はっ。悪いところが無いかを調べる検査だ。やってみなけりゃわからんよ。」
院長はそう笑って言った。

15分ほどで病院に着いた、車は通用門を通って奥に停まった。
「さあ、ここから入りなさい。」
案内されるまま、病院へ入った。検査室には和美と院長と看護師が一人だけだった。血液検査やレントゲン検査、心電図等をとってから、最後に触診を受けた。

病院のベッドに横たわると、院長が、和美の腹部を何度か触っていた。そして、カルテに何かを書き込んでは、また、腹部に手を当てる。レントゲンが現像されて持ってこられた。院長は、じっと見つめていた。心電図も熱心に見ていた。そしてまたカルテに何か書き込んでいる。
「ああ、もう起き上がって良いよ。」
和美はベッドにちょこんと座って服を直した。

「さて・・昨日の落下による打撲は大したことはなかったようだ。レントゲンを診ても、特に異常はない。心電図も大丈夫だ。良かったね。」
「はい。」
「ただね・・」
院長はちょっと意味深な言い方をした。
「血液検査の結果が出ないと何ともいえないんだが・・ああ・・以前、何か大きな怪我をしなかったかい?」
「いえ、大きな怪我はしていません。」
「そうか・・なら・・大丈夫か。」
「あの、どこかおかしいところが?」
「いやね。腹部・・・そう、肝臓がある辺りが少し硬くてね。内臓を痛めるほどの衝撃を受けた事があるのではないかと思ったものだから・・」
「昨日、階段から落ちたのとは?」
「いや、少し前だと思う。強い衝撃を受けて、内臓のあちこちが痛んでいるようで、血の巡りが良くない。今の状態なら大したことはないんだが、この先、あまり体を酷使すると肝臓辺りが悲鳴をあげるかもしれない。無理はしないようにして、栄養を付けていかないとね。事故に遭ってないとすると、もっと違う内臓の病気かもしれないね。」
「そんな・・・どこも痛くないし・・・」
「少し、入院して、もっと細かく検査をしたほうが良いだろう。村田屋さんには私からお願いしておこうか。」

和美は、ここまで聞いて、これ以上、誤魔化すのは無理だと思い、海に身投げした事やその後銀二や直子に救われて、村田屋にお世話になっている事を話すことにした。

「そうか。そんな身の上だったのか。昨日、村田屋さんからは不憫な境遇の娘で昔の事は聞かないでやってほしいとは言い含められたんだが・・それなら、この診立ては間違っていないだろう。」
和美は神妙な顔で医師の話を聞いた。

「いいかい。君の体は、見た目には何とも無くても、内臓がかなり弱っている。海に落ちた時の強い衝撃で小さな血管が痛んで、正常に動かなくなっているんだ。特に肝臓辺りがね。だから、無理しちゃいけない。寿命を縮める事になるからね。出来るだけのんびりする時間を取ること、そして、お酒は禁物だ。痛みは無くても徐々に疲れがひどくなって動けないほどになるだろう。良いね。決して無理はしないようにね。わかったね。」
「はい。判りました。本当にありがとうございました。・・それで、この事は、村田屋さんには・・」
「村田屋のご主人には一応伝えておかなくてはね、その約束だから。大丈夫さ、私も村田屋さんも君の味方だ。何かあったら必ずここへ連絡しなさい。良いね。」

診察を終えると、来た時同様、ハイヤーが和美を村田屋まで連れて帰ってくれた。

「ただいま帰りました。すみません、長い時間、お店を空けてしまって。検査のほうは特に問題は無いって言われました。昨日の怪我もすぐに良くなるだろうって言っていただけました。」
そうとだけ告げて、そそくさと部屋に戻り、幸一の世話を始めたのだった。

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