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file-1-1 -探して- [同調(シンクロ)]

ここは人口30万人ほどの地方都市、橋川市。
大手自動車メーカーの工場やその関連企業の誘致が成功して、地方にありながらも、比較的景気が良く、近年は外国からの労働者の流入も多かった。
もともとは、農業が盛んで、現在でも郊外に行けば、広い丘陵地帯には、見渡す限りの圃場が広がっていた。

****空に、一筋の青白い閃光が上がる。******
2007_0714_101044(1).jpg

「すみません。・・あの・・・事件が起きてるんです。」
まだ二十歳そこそこの娘が、警察署の玄関で、受付の女性署員に訴えるように迫っていた。

突拍子もない言葉に、女性署員は面食らって、返事が出来ずにいた。
「早く、・・急がないと・・殺されるかも知れません。ねえ、早く!」
「落ち着いてください。いきなりそう言われれても・・あの、何か目撃したんですか?」
そう問いかけられて、娘は天井を見上げて黙り込んだ。
少し間を置いてから、女性署員を睨み付けて、
「目撃したんじゃありません。でも、誘拐されてるんです!」
「はあ?誘拐?一体・・誰が誘拐されたんですか?どこで?」
「いえ・・それは・・判りません。でも誘拐事件が起きてるんです。」

娘が言っている事は、誰が聞いてもつじつまが合わない内容だった。
受付の女性署員は、単なる嫌がらせではなさそうだと思いつつも、まともに相手する中身ではないと感じていた。そして、半ば、拒否するかのように切り出した。
「判りました。それなら、この紙に、住所と氏名、連絡先を記入してください。それから、誘拐事件が起きていると言うのなら、その事実、証拠等も一緒にご記入ください。」
娘が渡された紙は、「困りごと申請書」という表題があった。
明らかに、女性署員は「娘が単に騒ぎを起こしたいのだろう」というふうにしか受けとめていないことがわかった。

「何なの!人の命が懸かってるのよ?誘拐事件が起きてるの!もう・・・。」
娘は悔しさ一杯に女性署員を睨み付けた。そして、急に何かひらめいたようだった。
「ねえ!じゃあ、矢沢さんていう刑事さんを呼んで来て!その人ならわかってくれるから!」
刑事の名を出した事で、女性署員も少し態度を変えた。

「お知り合いですか?」
「・・・いいから!呼んで来てよ。・・もういいわ。どこにいるの?教えて!会いに行くから。ねえ!」
娘が、受付の脇から強引に署内へ入ろうとしたので、女性署員は制止した。

「困ります。ここからは部外者は入れません。それに・・矢沢さんは刑事課じゃありません。」
「じゃあ、どこにいるの?ねえ、教えてよ!」
「やめてください。ちゃんと事の次第を説明していただければ・・」

警察署の玄関で、若い娘と女性署員がもみ合いになったものだから、出入りする人も驚いて、周りを取り囲んだ。その騒ぎを、ちょうど帰宅しようとしていた、紀藤亜美が見つけた。
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