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file1-2  亜美と・・ [同調(シンクロ)]

「ちょっと、どうしたのよ?」
「ああ、紀藤さん。いえ、この娘さんが、事件起きてると・・言われて・・矢沢さんに会わせろって・」
女性署員は娘の腕を掴んで制止したままで答えた。
「え?どうして、一樹に?」
亜美は、その娘の顔を見た。<こんな娘が会いにくるなんて、一樹は一体何してるのかしら>
内心、不快感を覚えながら、亜美は言った。
「ちょっと。落ち着きなさいって。今、呼んで来て上げるから。・・ああ、私は紀藤・・紀藤亜美。ここの署員よ。あなた、名前は?」
「レイです。ねえ、早く、呼んできて!」
「判ったから。・・ああ、そこに休憩所があるから、そこで待っていて。」
そう促して、休憩所の椅子にレイを座らせると、亜美は一樹を呼びに行った。

矢沢一樹は、埃っぽい資料室の机に足を乗せ、ふんぞり返って椅子に座っていた。
もともと、刑事課に配属されていたのだが、半年ほど前、窃盗事件のミスで、配置転換されたのだ。
元来、理屈より先に体が動く体育会系の彼にとって、この部署での日々は、眠っているのと変わらない、退屈極まりないものだった。
資料室のドアがいきなり開き、亜美が部屋に入ってきた。一樹は、その勢いに慌てて椅子から落ちそうになった。
「おいおい、なんだい。ノックぐらいしろよな。」
「ちょっと、来なさいよ。可愛い女の子があなたに逢いたいって玄関に来てるのよ!」
「あ?ああ?なんだい、それ?そんな可愛い女の子なんて知らないぜ?」
「良いから、早く。事と次第によっては、これっきりだからね。」
亜美が何故機嫌が悪いのか、それに可愛い女の子なんて言われてもまったく思いつかない、豆鉄砲食らったような表情のまま、一樹は亜美に腕を掴まれ、部屋を出て行った。

玄関脇にある待合室の隅、カップ売りのコーヒーの自動販売機の明かりを見つめるように、レイは居た。
資料室から出て廊下を曲がったところで、一樹はレイの姿を見つけて立ち止まった。
亜美は、犯人の取調べのような鋭い目つきで、一樹の顔をじっと見つめていた。
「おい、亜美。俺、あんな娘、知らないぞ。初めて見る顔だ。・・・それにしても可愛い顔してるじゃないか・・。ひょっとして、誰か、俺の名前を使っていたずらでもしたんじゃないか?」
どうやら一樹は本当に知らない様子らしかった。亜美は、少しほっとして言った。
「それならそれで、逢えば判るでしょ。」
「ヤダヨ。・・なあ、居なかったって行って追い返しちゃえよ。」
「何?やっぱり、何か隠してるんじゃないの?」
「何も無いよ。」
「じゃあ、自分で逢ってそう言えば?」
「判ったよ。・・お前、ここにいろ。ちょっと様子を見てみるから。」
一樹は、ぶつぶつと言いながら、レイの居るところへ向かった。

一樹は素知らぬ顔で、自動販売機に近づいて、小銭を放り込むとコーヒーを買った。機械が音を立てながら抽出する間に、横目に麗の顔をちらちらと見た。
<やっぱり、知らない顔だな。それに、俺のこと、知ってるなら、すぐに声をかけてくるはずだし>
そう思いながら、カップに注がれたコーヒーを取り出そうとしゃがみこんだ時、
「矢沢一樹さんですね。」
麗は、一樹の腕をおもむろに掴んだ。一樹は驚いて、コーヒーをぶちまけてしまった。
「あちー。何だよ急に。びっくりするじゃねえかい。」
「ごめんなさい。でも、思ったとおりの人。良かった。」
そう言うと、麗は飛び切りの笑顔で一樹を見つめた。
そのやり取りを少し離れてみていた亜美は、何だか腹が立っていた。可愛い娘のあんな笑顔、それだけで許せない気持ちになっていた。明らかに、嫉妬しているようであった。
「ねえ、一樹!どういう事?やっぱり、その娘と何かあるんでしょ?」
「ち、ちょっと待てよ。誤解だってば。俺はこんな娘知らないぜ。」
「レイさんだったかしら?一樹とはどういう関係なの?」
「・・はい、初対面です。」
きっぱりと言った言葉に、一樹も亜美も、呆気に取られ、顔を見合わせた。
「そんな事より、大変なんです。誘拐事件が起きてるんです。助けてください。」
二人は呆気に取られ、どうしたものかと目を合わせた。

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