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file1-3 レイの話 [同調(シンクロ)]

「まあ、いいさ・・とりあえず、話を聞こうか。」
一樹は、改めて、コーヒーを買ってから、長いすに腰を下ろした。
亜美もレイを促すようにして、向かいの椅子に腰掛けた。

「小さい女の子が、どこかの・・倉庫みたいなところに監禁されるんです。」
「あなた、それを目撃したわけ?」
「いえ・・なんていうか・・感じたんです。その女の子の恐怖を、感じたんです。」
「感じた?なんだい、それ?まるでオカルトか、じゃなきゃ、あんたはエスパーかい?」
一樹は、うんざりした表情で天を仰ぎ、手にしたコーヒーを一口飲んだ。
「あの・・私の話、信じてもらえないんですか?」
「・・・なあ・・・常識的に考えても、それを信じろっていうのは無理があるだろう。」
レイは、その言葉を聴いて、そっと目を閉じた。そして、両手で頭を包み込み、まるで何かを思い出しているような表情をした。真っ直ぐな長い髪の色が、その瞬間、少し青みがかったように見えた。そして、ゆっくりと目を開いてからこう言った。
「でも、今も・・その子が居るのは、廃工場の倉庫です。・・男が一人、近くに居ます。・・椅子に縛られているみたいです。」
「おいおい・・なんだい、それ、作り話もいい加減に・・」
と一樹が言いかけた時、急に、廊下にブザーが響いて、甲高いアナウンスが流れた。
『入電!入電!誘拐事件発生。関係署員は、3階会議室へ!』
一樹は、咄嗟に階段へ向かった。刑事課に居た時の習慣のようで、体が勝手に動いていた。

階段の上り口で、刑事課の佐伯と鉢合わせになった。
「やい!お前は、関係署員じゃないだろ!じゃまなんだよ!」
そういうと、一樹の肩をどんと衝いて、足早に階段を駆け上っていった。
その様子を見ながら、同じ刑事課で後輩だった佐藤が、
「済みません、矢澤さん。通ります。・・・会議の後、情報、流しますから。」
小声でそっと言って通り過ぎて行った。

一樹は、頭を掻きながら、すごすごと亜美たちのいる休憩室へ戻ってきた。
一樹はレイを見てから、
「偶然かもしれないが・・いや・・きっと、偶然だとは思うが・・その・・話を・・」
と言いかけたところで、亜美が横から口を挟んだ。
「ねえ、最初からちゃんと話を聞かせてくれる?」
レイは、二人の顔を見てこくりと頷いた。

「夕方、学校帰りに車で連れてこられたみたいです。近くに、ランドセルがあるようですから。それと、窓の外に、大きな風車・・風力発電の・・があるのが見えました。」
「見えましたって?あなた、その子が見ているものが同じように見えるの?」
亜美は興味深く尋ねた。
「ええ、その子の心と同調すると、五感が同じになるんです。ただ・・ぼんやりとした部分もたくさんあるんですけど・・。」
「心が読めるってわけ?」
「いえ・・・強い波長のような・・私は勝手に『思念波』っていってるんですけど。・・恐怖みたいなものを感じると、周波数が合うような感覚で、思念波にシンクロできるんです。・・夕方、女の子が誘拐された時の恐怖を偶然キャッチしたので、今、感じる事ができるんです。」
「そんなことって、あるのかい?」
一樹はまだ信じていないようだった。
「じゃあ、それが事実かどうか、調べてみましょうよ。どうせ、資料室に居てもやる事ないんでしょ?私ももう帰るところだし。」
「そう言ったって、どこに行くんだよ?風車が見える廃工場なんて、たくさん・・・いや?待てよ?・・なあ、仮にだが、その思念波とやらは、遠い距離だと感じないこともあるのか?」
「ええ・・私にはわからないんですけど、やっぱり遠くは感じないみたいです。」
「じゃあ、そんなにとおくじゃない。仮に、市内と考えてみれば・・・風車が見えるところなんて、そんなに多くない。・・その工場の周りに他には何か目印みたいなものはないか?」
レイはまた両手で頭を包み込み、目を閉じた。
「大きなクレーン・・赤と白に塗られたクレーンみたいなものも見えます。」
「そうか・・・じゃあ、場所の見当はついた。きっと、石崎町の工場団地の中だろう。」
一樹の目は昔の刑事だった頃の鋭さを戻していた。その様子を亜美は嬉しそうに見つめた。そして、
「じゃあ、これから行きましょう。どうせ、上じゃ、今頃、誘拐事件対応マニュアルに沿って、準備を始めてる頃よ。まあ、明日の朝くらいまで掛かるでしょ。その前に、助け出せば、きっとまた、刑事課へ戻れるかもね。」
「馬鹿なこと言うな!まだ、この娘・・レイさんだったっけ?まだ、信じたわけじゃないからな。」
「あら?そうなの。まあ、いいわ。行きましょう。」
3人が休憩室から出たところで、先ほどの佐藤刑事に出くわした。佐藤は、刑事課に配属され、最初に一樹から指導を受けたので、今でも兄のように慕っていたのだった。
佐藤は、何も言わず、小さなメモを一樹に手渡した。

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