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file1-5 救出 [同調(シンクロ)]

F1-5
「何とか、男を事務所から引っ張り出せれば・・・」
一樹はじっと考えた。
「よし!これから、俺が工場へ忍び込む。そして、機械や灯りか点ける。きっと不審に思って男が出てくるだろう。その隙に、亜美が事務所に入ってサキちゃんを連れ出せ!」
「いいわ、判ったわ。」
「私は?」
レイが訊いた。
「これは警察の仕事だ。一般人に何かあったら、懲戒処分くらいじゃ済まないんだ。じっとしていてくれ。いいな!」

そういうと、一樹は静かに車を出て、事務所の下をそっと抜けて、工場の中に入っていった。

「いや、参った。真っ暗で何もみえない。・・スイッチはどこだ?」
手探り状態で少しずつ前進すると、何かに躓いて転倒した。その拍子に、向う脛を思い切りぶつけて転がった。その勢いで、摘んであったプラスチックコンテナがガタガタと大きな音を立てて崩れた。
ベルトコンベアが動き始めた。その音は、事務所にも聞こえた。

「何だ?また、不良どもがいたずらに来たのか?今度こそとっちめてやる!」
事務所にいたのは、この会社の社長、武田だった。
「大人しくしてるんだよ、サキちゃん。何も怖くないからね。すぐにお父さんが来るからね。」
監禁しているにもかかわらず、武田はサキに対して優しかった。
武田はそういうと事務所を出て行った。

「出てきたわ。・・じゃあ、私の出番ね。」
亜美はそういうと静かにドアを開けて、工場の門の脇に身を潜めた。
武田が階段を下りて、工場に入っていったのを確認して、静かに階段を上がり、事務所の中に入った。
事務所のドアを開けると、椅子に座った状態のサキちゃんを見つけた。
「サキちゃん?権田サキちゃんね?警察よ。あなたを助けに来たの。もう大丈夫だからね。」
サキは、後ろ手に縛られ、さらにロープで体を椅子に縛り付けられていた。
サキは声も出さず、じっと亜美を見ていた。ロープを解くのに予想以上に手間が掛かった。

一方、一樹はまだ工場の床に転がったままだった。工場の入り口のドアが開いて、男が入ってくるのが判ると、そっと機械の下に身を潜めた。
「またいたずらしに来たのか!今度こそ、とっちめてやる。出て来い!」
男は声を荒げた。しかし、物音ひとつ聞こえてこない。男は懐中電灯を手にして、一樹の隠れている機械の傍にやって来た。
「おかしいな、コンテナは崩れてるし、誰かいるはずだが・・・。おい、誰かいるだろ!出て来い。」
男はそういいながら、機械を一回りしている。一樹は機械の足元に落ちていたパイプを握った。そして、男が機械のちょうど反対側に来た時だった。思い切り、男の足をめがけてパイプを振った。さっき、一樹がしこたま痛めたと同じ向う脛に命中。男はもんどりうって倒れた。機械の下から一樹は這い出ると、男に飛び掛かり、馬乗りになった。
「警察だ!サキちゃん誘拐容疑で逮捕する!」
その言葉に男は観念したように大人しくなった。
一樹はズボンの後ろのポケットに手をやってから、
「しまった、手錠もってねえや。」
辺りを見回し、落ちていたガムテープで男を後ろ手に縛り上げ、足にもガムテープを巻きつけて転がした。
「逃げるんじゃないぞ!!」
そういい残して、事務所に向かった。

事務所では、サキちゃんのロープを解こうと、亜美は必死になっていた。思っていた以上にロープは何重にも結ばれていてなかなか解けなかった。そうしているうちに、工場の前に車が停まった。先ほど出かけていった加藤が戻ってきたのだった。おそらく、権田宅へ身代金の催促の電話でもしに行ったのだろう。

事務所に煌々と灯りが点いている様子に、加藤も異常を感じた。
「あれほど灯りは点けるなと言っておいたのに。何やってんだよ!」
そう言いながら、加藤は階段を駆け上がる。
「おい!何やってんだ!」
そう言いながら、事務所に入ってきた加藤は、若い女が人質のロープを解いているのを見て、逆上した。そして、亜美に掴みかかろうとした。
その瞬間、加藤の後ろ頭に花瓶がぶつけられ、加藤は倒れてしまった。

車の中で大人しく待っていたレイが、加藤が戻ってきた様子に気づいて、階段の下の暗闇に身を潜め、そっと加藤の後に続いて事務所に来ていたのだった。
「よかった!間に合って。」

一樹が工場から出ると、加藤の車が戻ってきているのに気づいた。『まさか、亜美も人質になったか』と嫌な予感がして、階段を駆け上がった。事務所のドアが開いていた。

「無事か!」
「ええ、レイさんに助けられたわ。」
見ると、加藤は割れた花瓶と水浸しになった状態でのびていた。
「良かった、無事で。無茶すんじゃないよ。」



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