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file1-6 置手紙 [同調(シンクロ)]

F1-6
ほどなく、刑事課の面々がサイレンを鳴らして現場に現れた。
「いやに早いな。亜美、連絡したのか?」
「いいえ、まだ。」

刑事課の佐伯と佐藤が入ってきた。
「お前ら、何してる?」
「いや・・」
「まあ、良い。権田サキちゃんだね。もう大丈夫だ。家に帰ろう。・・佐藤!加藤と武田、確保しろ!」
佐伯は調子よく、犯人を逮捕した。
「どうしてここが?」
一樹は不審に思って佐藤に尋ねた。
「さっき、権田宅へ身代金の催促の電話があって、逆探知で、岩崎町と特定できました。犯人は、加藤祐一だと、権田さんの話でほぼ特定できていましたから、魁トレーディングの関係者から、岩崎町の武田フーズにだいたい辺りをつけていたんです。・・素人の犯行ですし、すぐに特定できたんです。それより、矢澤さんこそ、どうしてここに?」
「いや、・・偶然・・かな。まあ、刑事の勘とでも思ってくれ・・まあ、またゆっくり説明するよ。」
そんな会話をしていると、佐伯が割り込んできて、
「困るなあ、部外者がこんなことしちゃ。人質が無事だったから良いようなもんだが、何かあったらどうしてくれるんだ。また、とんでもないミスでもされちゃ困るんだよ。さあ、現場を荒らさないようお引き取り願おうか。」
亜美がその会話を聞いて、佐伯に食って掛かりそうな表情を見せたのを一樹が気づき、ゆっくり制止した。
「へいへい、後は刑事さんたち宜しくね。・・ああ、武田は工場の中に転がってるよ。」
一樹はそう言って、レイと亜美の背を押しながら、階段を下りていった。
後ろから、佐伯が、
「悪いが、明日、事情聴取だ。一応、経過を聞かせてもらうから。」
一樹は振り向きもせず、亜美の車に乗り込んだ。

「まったく何よ!まるで自分たちが解決したような口ぶりで!一樹も何とか言ってやれば良いじゃない!」
亜美はまだ怒りが収まらない様子だった。
「レイちゃんが居なかったら・・」
そう言ってレイのほうを向いた、亜美が表情を変えた。
「ねえ、レイちゃん、レイちゃん、大丈夫?」
レイは、意識が朦朧とした表情だった。長い黒髪がところどころ白くなっていて、肩で息をしている。
「一樹、どうしよう。」
「大・・丈・・夫・・です・・・すこ・・し・・休・・め・ば・・」
レイが絶え絶えに小さな声で返事をし、憔悴したように意識を失った。

「私の家に行って!」
一樹は車を走らせた。亜美の家は、山手の住宅街にあるマンションだった。実家は署からほどない距離にあったが、一人暮らしがしたくて、父の反対を押し切って形で、住んでいた。しかし、マンションの資金は全て父親が出してくれていた。一樹も何度か玄関までは来た事があったが、部屋に入った事は無かった。
駐車場に車を停め、一樹がレイを負ぶって、部屋まで運んだ。

「意外に、レイって重いぜ。それに、まだ子どもかと思っていたけど・・」
その言葉に亜美が反応した。
「どこが子どもじゃないのかしら?」

レイをベッドに下ろすと、
「さあ、用事は済んだわ、さっさと帰って。私も疲れたわ。・・そうそう、明日、私非番だから、署へは行かないから、事情聴取は一樹一人でお願いね。まあ、そんなに佐伯さんも尋問めいた事はしないでしょうけど。それと、レイちゃんのことは、口外しないほうが良さそうね。言っても信じては暮れないでしょうけど。じゃあ、そういうことで。」
そういうと、亜美は一樹を厳寒に追いたて、靴を玄関の前に放り投げ、一樹を追い出すようにして、ドアを閉めた。
「なんだい、あの態度!だから、いつまでも彼氏ができないだろ!」
ぶつぶつ言いながら、マンションのエレベータのボタンを押した。
マンションの玄関を出たところで気づいた。ここに来るのに、亜美の車で来ていたのだ。一樹は、戻る足がなった。おまけに、カバンも署に置きっぱなしで、携帯電話も財布も何も持っていなかった。
「ここから、歩いて戻るわけ?なんて一日なんだ!」
そう言いながら、一樹は一人夜道を歩いた。

明け方近く、亜美のマンションの前に、黒塗りの高級車が停まった。
しばらくすると、マンションからレイが姿を見せ、その車に乗り込んで何処かに消えた。

翌朝、亜美が目を覚ますと、レイの姿は部屋になく、テーブルの上には、小さなメモが置かれていた。
『ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。
お世話になりました。
信じていただけてありがとうございました。
また、連絡します。 レイ』


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