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file2-1 署長からの呼び出し [同調(シンクロ)]

F2-1
 翌日も翌々日も、亜美は署に顔を見せなかった。一樹は、レイのことが気がかりで、亜美が来れば、その後の様子も聞きだしたかったが適わなかった。

誘拐事件から3日後、一樹は夕方署長室に呼ばれた。
誘拐事件の際、捜査本部には報告もせず、勝手に現場に突入した事で、何らかの処罰をされるのだろうと思いつつ、署長室に向かった。
犯人を捕まえる事ができたとはいえ、警察官としてはやはり規則違反、いや、見込み捜査であり、何の確証も無く、勘だけで動いた事はやはり一樹も反省していた。だからこそ、レイの能力や信憑性についても確かめたかったのだが、今日まで叶わなかった。
一樹は所長室のドアの前で一息ついてから、
「矢沢です。入ります。」
そう言ってドアを開けて驚いた。
署長室には、署長以外にも、県警本部長や刑事課長、佐伯や佐藤の顔もあったのだった。
「オウ、来たか。それじゃあ、そこに立て!」
署長席の前に立たされた一樹は、何が起こるのか予想がつかず、どぎまぎしていた。
「署長賞!貴殿の活躍は他の模範となるものであり、表彰するとともに金一封を与える」
署長はそういうと、表彰状と金一封を手渡した。居並ぶ面々が、拍手をした。
一樹は面食らったが、とりあえず、表彰状を受け取った。
その様子を見ていた佐伯が、ぼそっと「運が良いだけさ、なあ佐藤!」とつぶやいた。

刑事課長の鳥山が、
「署長、そろそろ、こいつを刑事課に戻しても良い頃じゃないでしょうか?」
とせっついた。署長はにやりとしながらも、
「いや、まだだな。今回は、娘・・いや紀籐署員の協力・・いや、他の署員を巻き込んで危険な目にも遭わせたらしいから、まだ、もうしばらくは今のところで鋭意努力してもらいたいなあ。」
と少し意地悪そうに返答した。

表彰が終わり、皆が退室し始めたとき、署長が、
「一樹、この後、何か予定あるか?・・あるわけ無いな。付き合え!良いな!」

署長の名は、紀籐勇蔵。亜美の父親である。
矢沢一樹は、小さい頃、警官だった父を亡くし、母も追うように他界してから、児童用養護施設で育ったあと、高校生の時、紀籐と知り合い、何かと面倒を見てもらっていたのである。警官になったのも、父と紀籐の影響によるものだった。

二人は、署の階段を下りながら話した。
「一樹、まあ、もう例の事件のことは、気にするな。お前の良さは俺が一番知ってる。刑事課にはいつでも戻してやれる。・・ただ・・これから、お前にやってもらいたい事があるんだよ。」
例の事件とは、1年ほど前の窃盗犯の事件の事だった。外国人の窃盗団が、橋川市に入ってきて、署を挙げて検挙に躍起になっていた。一樹は、同僚の葉山一郎と二人で深夜パトロールに就いていた。鷹丘町の住宅街で、黒塗りのバンが公園前に駐車しており、向かいの家の窓が割れる音が聞こえた。二人はすぐに現場に駆けつけた。体格の良い男3人が住宅の中庭に居た。すぐに、一樹が現場に飛び込んだ。
「警察だ!」
そう叫ぶと、3人は停めてあったバンに乗り込もうとした。一樹は、一人の腕を掴んで押し倒した。男は抵抗し揉み合いになった。男が洋服の下に忍ばせたピストルを取り出し、1発発射した。弾丸は、一樹の太ももを貫通した。すぐに、一樹は男の手首を掴んでピストルをもぎ取ろうとした。しかし、その弾みで、暴発した。運悪く、その弾丸が葉山の頭を貫通した。
葉山は一命は取り留めたものの、意識不明のまま緊急入院し、現在も意識が回復しないままだった。
犯人にも逃げられてしまった。
事件の状況は一樹の証言以外に無いため、事件・事故の両面で県警本部でも審議されたが、決着はつかず、一樹の責任は問えないものの、そのまま刑事課勤務にしておくことはできないと判断され、署長が今の部署へ配置転換をして、決着をつけたのだった。
「わかってます。それに、葉山はまだ病院にいます。奥さんにも申し訳ないですから・・。」
署長は、一樹の背中をぽんと叩いて、
「よし!署長賞の祝いをしよう。行きつけの店で騒ぐとするか!」

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