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file2-2 レイの能力(チカラ) [同調(シンクロ)]

F2-2
「また、ここですか?」
「何だ、文句あるか?」
紀籐の行きつけの店は、署から歩いてすぐのところにあるカラオケ店である。
まったく下戸の紀籐は、しばしばここに一樹を誘ってきていた。店長とも顔なじみで、ドアを開けて入ると店長はそっと指差して、入り口近くの部屋を案内した。
部屋のドアの飾りガラスから部屋を覗くと、そこには、亜美とレイの姿があり、二人でマイクを持って楽しげに熱唱していた。

「おう、早いな。」
「パパ、遅いんだから。呼び出したのはそっちでしょ!もっと早く来てよね。まあ、レイちゃんと楽しくやってたけど。」
「すまん、すまん。・・・一樹、まあ、座れ。今日は一樹の署長賞の祝いだから、好きなものを注文しなさい。今日はおごりだ。」
一樹の祝いだといいつつ、亜美やレイが来ていることで、一樹は署長が誘拐事件のいきさつについて興味を持っている事はわかった。ただ、実際、一通り説明したところでどこまで信じてもらえるかは疑問に思いつつ、席に着いた。

「パパ、こちらがレイさん。誘拐事件の通報者。」
「初めまして、神林レイです。」
「やあ、初めまして。亜美が助けてもらったようで、ありがとう。・・・君、神林と言ったね。」
「パパ?神林さんって何か?」
「いや、ちょっと昔の知り合いでよく似た・・いや・・なんでもない。・・大体の話は、亜美から聞いたんだが・・どうにも信じられなくてね。・・それで、直接会って話を聞きたいと思ってね。」
「署長!・・俺も最初信じてなかったんですよ。・・今でもまだ半分くらいは・・」
「まあ、一樹!レイさんのおかげで署長賞ももらえたのに、まだそんな事言ってるの?」
「だって、そうだろ。・・おれもあれからいろいろ考えたんだ。ひょっとして、レイさんが偶然、サキちゃんが連れ去られるところを見て・・」
「まったく疑い深いんだから・・じゃあ、工場の場所や監禁されてる様子なんか、どうしてわかるのよ!」
「いや、私も、亜美から聞いた時、何を言ってるのか判らなかったくらいだ。もし、そういう能力があるのなら、刑事が汗水たらして動き回る事は無駄になる、その内、警察は要らなくなるんじゃないかな。」
「もう!本当に男どもはどうしようもない生き物なんだから。」
「まあ、そう言うな。少し、レイさんの事も知りたいんだが・・」

レイは自己紹介をした。
「神林レイです。年は、亜美さんより1歳年上で26歳です。大学を卒業して、今は家の手伝いみたいな事をしています。」
「え!亜美より年上なのか?まだ、二十歳前くらいかと・・亜美はやっぱり老けて・・」
「何なの!?一樹、どういうこと?」
「まあ、良いじゃないか。で、大学では何を?」
「医学部で・・」
「え?お医者さんなの?知らなかった。だって、家事手伝いって言ってなかった?」
「じゃあ、ご実家は病院を?」
「と言う事は、港町にある神林病院と言う事かい?」
「はい。」
そう聞いて、紀籐はじっと腕組みをし目を閉じて黙り込んでしまった。

「ふたりとも、何なのよ!取調べでもしてるつもり?」
「・・すまん、すまん。いや・・その・・君の能力について教えてもらいたいんだが・・」

レイは、誘拐事件の経過を追いながら、強い恐怖心から発せされる『思念波』をキャッチできる事、相手と同調する事で五感を共有できる事、能力を使うと体力を使い一時的に動けないくらい憔悴してしまう事などを話した。

「いつからそんなチカラが使えるようになったんだい?」
一通り話を聞いた紀籐が質問した。レイは少し困った顔をした。
「それが・・・よくわからないんです・・・小さい頃から勘が良いとは言われてましたけど・・はっきり意識したのは、6年ほど前です。」
「6年前と言えば、管内で連続暴行事件が起きた頃だ・・・未解決のままだが・・・」
「ええ、その頃、夜になると底知れぬ恐怖が襲ってくるようになって、最初、精神的な病気にでもなったのかと思ったんですが・・ある日、新聞で事件を知って・・ちょうど、事件の起きた日時と一致するので・・もしかしてと思っていたんです。」
「偶然じゃ・・なかった?」
「確か、最後の事件の被害者は、殺害されたんですよね。」
「ああ、18歳の女の子だった・・・部活の帰りに襲われたらしいんだが・・・。」
「異常に強い思念波を感じて、屋上に出たんです。ちょうど事件の起きた方向に、青い閃光のようなものが見えて・・その直後に・・」
そう言いながら、その時の状況を思い出したのか、レイは急にガタガタと震えだした。
「レイちゃん、大丈夫?良いのよ、無理しなくて・・」
亜美がレイを労るようにして、テーブルの上のアイスコーヒーを差し出して飲ませた。

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