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file2-3 女の子の叫び [同調(シンクロ)]

一樹はそれまでのやり取りをじっと聞いていたが、レイの様子を見て、
「わかった。レイさんに能力があることは信じるよ。でも、その能力は使わないほうが良い。この間も、助け出したあと、すっかり意識も無くすほどになったじゃないか。・・凶悪事件はいくらでも起きるんだ。そういうのは俺たちの仕事だし・・なあ、そのチカラを封印する事はできないのかい?」
一樹の意外な言葉に、亜美が驚いて、皮肉めいた声でこう言った。
「なんだか、妙にレイちゃんには優しいのね。」
「いや・・そうだろう。被害者の感じるもの、見えるものがわかるって事は、苦しさとか痛みとか全て共有する事になる。レイさんが、直接、酷い目に遭うのとおなじだろう。そんなの耐えられるわけがない。俺なんか、殺害現場で遺体を見るだけでも耐えられないんだ、ましてや、その状況の中に居たとしたらどうだ?」
一樹がいつになく真面目に言ったことで、亜美は、自分自身が恥ずかしくなったと同時に、少し一樹を見直していた。

「そうだな。」
紀籐も、一樹の言葉に同調した。しかし、当人のレイは、
「いえ、そうじゃないんです。確かに一樹さんの言われるように苦痛は伴います。でも、この能力は自分ではどうしようもないんです。・・勝手に、思念波が飛び込んでくるんです。」
「使わないという事ができないのか。」
「ええ、だからこそ、最初の思念波を感じた時に、一刻も早く助けてもらいたいんです。より強い恐怖や苦しみにならないように・・・それで・・私の・・いえ、私も救われるんです。」

「ねえ、パパ、何とかならない?」
レイの必至の言葉に、亜美も何かできることはないのかを考えつつ、紀籐に尋ねた。
「レイさんの思いはわかった。だが・・・」
「ダメだって。結局、この前も危ない状況にレイさん自身も巻き込んでしまっただろう。」
「でも、このままじゃ、レイさんはずっと辛いまま。私たち警察は、事件が起きてから犯人を追いかけることには必至でも、事件を未然に防ぐ事ができないんだし・・レイさんの力を借りて、事件が速く解決できるなら、被害も小さく済むわけだし・・・そうよ、レイさんの能力で事件を解決するのが一番なんだってば。」

「あ・・・また・・・」
レイが急に頭を抱えるようにして蹲った。
「どうしたの?レイちゃん!」

「いや・・・怖い・・真っ暗な部屋の中・・・隠れてる・・・怖くて・・・」
その形相は尋常ではなかった。まるで自分が囚われているかのように、手足を縮めガタガタと震えている。
3人は顔を見合わせた。

「レイちゃん、何?何が起きてるの?」
顔を覗き込むように亜美が問いかける。
レイは目を開き、我に返ったような表情で
「どこかに小さな女の子が閉じ込められて・・いや・・隠れてる・・見つからないように・・クローゼットの中みたい。」
「他に様子はわからない?」
「怖くて目を閉じてるみたい・・じっとしてる。」
「名前とか・・住所とか・・何か手がかりになるようなものはないか?」
一樹が問う。先ほどまで否定的だったものの、この状況では動かざるを得なかった。
レイは首を振るだけだった。
「何でも良いんだ・・そうだ!何か、音は聞こえないか?」
レイはじっと精神統一するように目を閉じた。
「信号・・横断歩道の音・・そう、音声案内の音が聞こえてる。でも余り近くじゃないみたい。」
「他には?」
「・・・隣の部屋から音がする。・・・何か言い争っているような男の怒鳴り声。」
「夫婦喧嘩?」
「いや違うだろう。それほどの恐怖、隠れてじっとしている事、何かの事件に巻き込まれてるはずだ。」
「あ・・今、何か落ちて割れた音・・女の人の声もする。・・・きっと大人二人が隣の部屋に居るんだわ。・・」
「やはり強盗か何か・・場所がわかれば・・」
「女の子が、『ママ』って小さくつぶやいたわ。きっと女性が脅されてるみたい。」
「よし!署に戻ろう。戻って、音声信号のある場所をまず洗い出して、絞り込んでいこう。」
4人は店を出て警察署に戻った。

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