SSブログ

file2-4 場所の特定 [同調(シンクロ)]

F2-4
署に戻った4人は、一樹の勤務している資料室に入った。
早速、亜美がパソコンを使って、市内の音声信号のある地点を検索し始める。
「ダメだわ。市内に20箇所以上あるわ。一つ一つ当たってたんじゃきりがない・・」
亜美はパソコンの画面を睨みつけ、市内の地図画面から、何かヒントになるようなものはないか、考え込んでいた。

一樹は、レイを資料室の机の脇にあるソファ・・いつも一樹が昼寝をしている廃物同様の代物だが・・に座らせた。
紀籐は、一旦、署長室に戻り、専用のパソコンを使って、何かを調べ始めた。

「ねえ、他に何か手がかりになるものはないかしら。」
レイは再びシンクロを始めた。
「・・・何も見えない。・・・あ・・何?・・救急車のサイレンの音。すぐ近くだわ。」
「じゃあ、消防署で絞り込んでみましょう。・・ええと・・4箇所。全て音声信号の近くだわ。」

一樹は、そこまで聞いて、
「俺、とりあえず、その4箇所を回ってみるよ。何か、手がかりが見つかるかもしれない。何か判ったら、携帯で知らせてくれ!」
そういうと部屋を飛び出していった。

内線が鳴った。
「おお、亜美か?一樹は出て行ったな?」
「今、飛び出して行ったわ。とりあえず、市内の消防署4箇所の周辺を見てくるからって。」
「そうか・・今、消防署に問い合わせしたんだが、ちょうど2箇所で救急車が出動したらしい。どちらかだと思うんだが・・」
「ねえ、何で消防署に?」
「すまん、すまん。署長室にはモニターがあって、各部屋の音声を聞けるようになってるんだよ。署員は皆知らないんだが・・まあ、署長の悪口もたくさん聞くことになるけどなあ。」
「んもう!・・で、その2箇所って?」
「上田町と磐田町だ。」
「レイちゃん、どちらだと思う?」
レイはしばらく考えてから
「私の力はそんなに遠くは届かないんです。だから、おそらく、磐田町だと・・」
「よし、一樹に連絡して、磐田町の消防署周辺を調べるように伝えてくれ。」
「わかったわ。」

亜美は、すぐに携帯で一樹に連絡した。
「ちょうど今、磐田町に向かったところだ。1,2分で到着する。だが、ここからどうやって絞り込む?」
「もう少し、レイちゃんにシンクロしてもらうから・・」
「余り無理をさせるなよ。」
「やっぱり・・レイちゃんには優しいのね?」
「馬鹿言ってんじゃないよ!」

亜美に言われるまでもなく、レイはそのままシンクロを続けていた。レイは、まるで、隠れている女の子のような姿勢で足を抱え込み、背を丸め、じっと目を閉じている。時折、びくっと体を緊張させ、更に頭を縮めるようなしぐさもしている。

「声が・・声が聞こえる。・・今度はすぐ近く。きっと女の子の部屋に入ってきたみたい。」
「何て言ってる?」
「男の声・・『もっと金になるものがあるだろう。病院をやってるんだから』って言ってるみたい。」
「病院?・・そうか、きっとその家、病院の経営者ね。・・でも、磐田町には大きな病院はないわ。・・美容院かしら?・・でもね・・」

また、内線電話が鳴り、紀籐の声がした。
「亜美!それはきっと、加藤美容クリニックの院長宅だ。・・確か、磐田町にあるはずだ。」
「え?・・あ、そうか。病院長の家ね。ええと・・あ・・あったわ。」
「すぐに一樹に連絡だ。それと私たちも向かおう。」

亜美は、立ち上がり、レイのほうを見た。すると、レイはソファの上に座ったまま、体を強張らせ動かない様子だった。
「どうしよう。レイちゃんが、動けなくなってる。」

署長室から紀籐がやってきた。
「そうか、こんなに辛い事になるのか・・・でも、この娘が居ないと、これ以上は厳しいな。・・仕方ない、惨いようだが、一緒に行ってもらうしかない。」
そういうと、紀籐は、レイの丸まったままの体を包み込むように抱えると、署を出ていった。
レイの体を抱えた紀籐は、特別な感覚を憶えていた。懐かしいような、悲しいような、これと同じような感覚を、はるか昔感じていたのである。まだ、若かった20代の頃、遠く記憶から消し去っていた感覚だった。
レイの名前を聞いた時、まさかとは思っていたのだが、レイを抱きかかえてみて、自分の予想がおそらく確実なものだろうと考えていた。
レイは、抱きかかえられながら、徐々に体の強張りが緩んでいき、安らかな気持ちになっていくのを感じていた。

「パパ!もう良いわよ。ほら、レイちゃん、もう大丈夫よね?」
亜美の声で我に返った。亜美が車のドアを開けて、立っていた。

nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

Facebook コメント

トラックバック 0