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file2-5 電話 [同調(シンクロ)]

F2-5
一樹は、[加藤]という表札のある大きな邸宅の前に居た。
門柱や玄関の明かりは点いていたが、ほとんどの窓にはシャッターが下りていて、中の様子はわからなかった。
何とか中の様子を探ろうと、家の周りを歩いてみたが、邸宅は、すっぽりと2メートルほどの高さのブロック塀に囲まれていて、更に、防犯用の鉄条網が塀の上に張り巡らされていた。これほど用心深い家なのに、何故、強盗に押し入られたのかは疑問だった。一回りしてみたが、やはり、一旦、中に入って庭のほうから探るしかない状態だった。とはいえ、自分ひとりでは、心許ない。署長や亜美の到着を待つ事にして、一旦、車に戻った。

しばらくして、署長や亜美も到着した。一樹は家の様子を説明した。

「レイちゃん、何か変化はない?」
レイはすぐにシンクロを始めた。しかし、首を横に振り、
「女の子は疲れて寝てしまったみたい。・・何も感じられないわ。シンクロする相手が眠ってしまったり、気を失ったりするとダメなの。」
「そうか・・せっかく、ここに来てもらったのだが・・」
紀籐は、連れてきたことを後悔した。

「ここに間違いないんだよな。」
一樹が何か考え付いたように言った。そして、
「なあ、冷静になって考えればいいんだよ。俺たち、レイさんに頼りすぎてないか?あそこに、強盗がいる事がわかっているのなら、通常の事件と同様に対応すれば良いんだよ。」
一樹の言葉に、亜美が反応した。
「そうね。中には、加藤院長とその子どもが居て、強盗に脅されているのよね。何とか中に入ってその強盗を取り押さえればいいわけだから・・。刑事課や防犯課の応援を頼むのはどうかしら。ねえ、パパ。」
「おいおい、まだ、事件の通報があったわけじゃないし、応援を得るには、状況を確実にして、その対策を取る事が前提だ。・・この状況をどうやって説明する?」
「そこは、パパの一言で!」
「ダメだ。私もそうしたいところだが、レイさんの能力を説明するのはどうだ?不思議な力を持つ女性なんていうのは、そう理解されるものじゃない。それに、今から応援を頼むとしても、かえって大騒ぎになって、犯人を立て篭もらせてしまって、人質として危害を生む危険性だってあるだろう。」

皆、考え込んだ。
「とにかく、中の様子をもっと知る事が先決だ。」
紀籐が口を開く。
「判ったわ、私が電話をしてみる。まさか、警察からとは思わないだろうから・・中の様子が少しでもわかればいいんだし・・」
網は携帯を取り出して電話をかけた。署を出る時、加藤院長の個人データは確認しておいたのだ。
「ええと・・加藤由紀 40歳 独身・・娘が一人・・麻綾ちゃん・・電話番号は・・」

電話の呼び出し音が鳴った。
加藤宅では、犯人が一瞬たじろいだ。由紀は犯人の顔を見た。強盗犯は、鳴り続ける電話に苛立ち、由紀の背をつつき、出るように指示した。

「ハイ・・加藤です。」
怯えるような声でようやく返事をした。
「もしもし、加藤由紀さんですね。私は紀籐亜美と言います。橋川署のものです。今、強盗に押し入られていますね。」
由紀は返事をためらったが、短く「ハイ」とだけ答えた。
「怪しまれないよう、病院からの電話だと言ってごまかしてください。」
「ハイ。」
加藤由紀は、犯人に向かって、「病院からの電話です。」
犯人は、睨みつけ、「おかしなことを話すんじゃないぞ!」と言った。
「要件は?」
加藤由紀は、病院からの事務的な要件を受けるような冷静な声を出して聞き返した。
「今、外に待機しています。犯人は一人ですね?」
「ハイ。」
「何か武器のようなものを持っていますか?・・いや、犯人は凶器を持っていますか?」
「ハイ。・・あ・そうだ・大きなサイズのメスが何本か必要だから、用意しておいて。」
この返答に、亜美は少し戸惑ったが、すぐに犯人がナイフを見せて脅しているのだと判った。
「すぐに、・・私が迎えのための看護士になって伺います。いいですね。」
「判ったわ・・でも、少し時間をちょうだい。支度をするから・・それと、必ず、裏口からね。」
「すぐに助けに行きます。安心してください。」
「ハイ。」

このやり取りに、強盗犯が痺れを切らして、「おい・・もう切るんだ!」と怒鳴った。
「おい!いい加減にしろ!」
そう怒鳴ると、加藤由紀から受話器を取り上げて、床に叩きつけた。
「病院から迎えが来るわ。緊急に手術が必要な患者が居るの。」
「そんな事、知った事じゃねえ。・・あれだけ、あくどい事やってるんだから、たいそう、宝石とか時計とか、金目のものを持ってるんだろう。素直に出せば、俺もさっさと引き上げる。」
「こんな事をしてただで済むと思ってるの!」
「どうせ、警察には通報できゃしないだろ・・まあ、その辺は、これからの楽しみで・・これで済むとは思うなよ。」
「あなたこそ、こんな事をして、報復が怖くないの?」
「何が報復だよ。そんな事をすればもっと酷い事になるぜ。」

強盗犯は引き続き、由紀を脅して、部屋の中を物色した。

亜美の携帯からは無機質な音がツーツーと流れた。
「犯人は一人みたいね。・・残念だわ・・多分、電話機は壊されたみたい。でも、糸口は掴めたわ。」
「一人か・・それなら、何とかなるかもな。」
「でも、どうやって中に?」
一樹は、あまり可能性というものを考えず動くタイプで、少し思いつきのようなことを言った。
「待って。・・さっき、裏口からって言ってたわ。おそらく、裏口のほうが何か可能性があるんじゃ。」
「そうか。裏口から中には入れるんだろう。」
一樹はそういうともう裏口へ走っていた。
その様子を見ながら、亜美は、先ほどの電話の会話を思い出していた。
強盗犯に脅されている割りに、加藤の返答はしっかりしていた。自分に危害があるとは感じていないような不思議な感じがしていた。

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