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file2-7 スタンガン [同調(シンクロ)]

F2-7 スタンガン
強盗犯は静かに裏口に立ち、覗き穴から外の様子を見た。裏口には街灯はなく、ぼんやりとしか外の様子がわからない。人影は見えるのだが、人相までは判らず、苛つきながら、由紀に返事をするように指で示した。
「ハイ。ご苦労様。・・」
「先生!さあ、お急ぎ下さい。もう準備はできています。」
「ええ・・でも・・」
由紀はそういうと強盗犯を見た。強盗犯は由紀の耳元でささやいた。
「よし、ドアを開けて中に入れろ。お前の代わりに、人質にしてやる。ゆっくりと開けろ。」
強盗犯に言われるまま、ドアをゆっくりと開けた。

外では、亜美がドアが開くのを待っていた。由紀がドアを開ける。
「先生!」
その声と同時に、強盗犯が脇から手を伸ばし、亜美の腕を掴んで中に引き入れようとする。入れ替わりに、由紀がドアの外に飛び出した。ドアの脇に隠れていた紀籐が、由紀を受け止めた。
「もう大丈夫です。」
その声と同時くらいに、強盗犯が「ううっ」という呻き声を出して倒れた。

亜美が、強盗犯に首筋にスタンガンを押し当て、スイッチを押したのだった。その様子は、大きな物音になって、2階に居た一樹と少女にもわかった。
一樹は少女を抱き上げ、ゆっくりと階段を下りた。

キッチン脇にある裏口の板の間に、強盗犯は気絶していた。

紀籐はすぐに署に連絡をした。当直の刑事が電話口で状況を聞き、飛び出してきた。
しばらくすると、けたたましいサイレンを鳴らしながらパトカーが到着し、すぐに立ち入り禁止のテープが加藤邸の周囲に張られた。近所の住民も住宅街での突然のサイレンに集まってきて、「何があったのかしら」「強盗らしいわよ」と口々に話していた。

「署長!」
「おう、早かったな!」
やってきたのは、佐伯と佐藤だった。
「一体、どういう事ですか?強盗の通報なんてなかったし・・それに、何で、矢沢やお嬢さんまで?」
「まあ、いいじゃないか。現行犯逮捕だ!すぐに連れて行ってくれ。・・俺たちもすぐに署に戻る。状況はその時に・・」
佐伯は犯人の体を揺さぶり、起こした。
「さあ、立て。・・お前、強盗に入るにしては覆面もせず・・凶器はこのナイフか?あとで、人質は殺すつもりだったのか知らないが、これじゃあ、人は殺せないぜ。・・間抜けなのか、大胆なのか、まあ、良い。署でみっちり取り調べてやる。」
そういうと、さっさと手錠をかけ、引っ張っていった。
「矢澤先輩、またお手柄ですね。これで、刑事課へ戻れるんじゃないですか?」
後輩の佐藤が小さな声で一樹に言った。一樹は、佐藤の肩をポンポンと叩いてから、首を振った。

リビングの隅には、由紀と少女がいた。
少女は恐怖の中で精神的に疲れてしまったのか母親の脇で静かによこになっていた。由紀は、娘の様子をあまり心配しているようではなく、むしろ、他の事を考えているようなしぐさをしていた。
「加藤さん、お怪我はありませんか?」
紀籐が声をかけた。
「ええ、大丈夫です。」
すぐに救急車も到着し、加藤由紀と女の子を乗せて病院へ向かった。

現場検証も始まり、紀籐は事件の状況を鑑識官に説明していた。
亜美と一樹は、レイの様子が心配になり、待機しているはずの亜美の車に戻ってみた。しかし、助手席には、レイの姿はなく、前回のときのような置手紙が1通置かれているだけだった。

『ありがとうございました。用事ができたので帰ります。また連絡します。 レイ』

その手紙を取り上げて、亜美が、
「また、これなの?・・でも、あの喧騒の中で・・疲れているでしょうに、どうやって帰ったのかしら。」


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