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file3-4 病院窓口 [同調(シンクロ)]

F3-4 
署から神林病院までは、ほんの10分ほどのところだった。

14階建ての大きな病院だった。元々は駅前にあった小さな医院だが、今の院長が脳外科の専門医として名を上げ、全国的にも有名になり、総合病院化を進めて移転したのだった。
衛生的で広いロビー。総合案内には二人の若い女性が座っていた。

一樹は、いきなり案内窓口に行くと、警察バッジを見せて
「橋川署の矢澤です。神林レイさんは?」
と、つい、聞き込みのような態度で問いかけてしまった。
受付の女性は顔を見合わせ、周囲にいた来院者も皆静まってしまった。
「ちょっと!一樹、何してんのよ。聞き込みじゃないんだから・・」
そう言って亜美が案内窓口に行き、一樹を押しのけ、
「すみません。・・神林先生にお会いしたくて・・こちらのお医者さまですよね。」
「あの・・何か、事件なんでしょうか?」
受付の女性が、不安な面持ちで、こわごわ問いかけた。
「いえ、ちがうんです。・・ほら、一樹、いきなりそんなもの見せるから・・いえ、実は神林先生には昨日、少し御協力いただいたことがあって、御礼も含めてお会いしたくて・・」
「・・神林先生?・・院長は神林章一郎先生ですが・・神林レイさんてどなたでしょうか?」
受付の二人は顔を見合わせ、思い当たる様子が無いようだった。
「え?神林レイという名の先生はいらっしゃらないの?」
「ええ・・神林先生は院長だけですが・・」
「あの、神林章一郎先生は、脳外科の御専門の・・有名な方ですよね。・・じゃあ、娘さんとか・・」
「いえ、確か、先生のお嬢様はお亡くなりになったと聞いています。」
「・・それなら・・お孫さんは?」
「いえ、お嬢様が若くして亡くなったのでいらっしゃらないと思いますが・・。」
亜美は、天を仰いだ。そして、一樹に、
「どうしよう。・・」
「ほらな?お前の考えは浅はかなんだよ。・・置手紙ひとつで居なくなるんだ。そんなにすぐにわかるところには居ないさ。」

受付の女性の一人が、もう一人に向かって、隠し事でも伝えるような小さな声で
「ねえ・・ひょっとして、レイさんって新道先生の事じゃ・・」
「馬鹿ね。新道先生が神林を名乗るわけないじゃない・・」
その会話を聞いて、亜美が反応した。
「新道レイという先生ならいらっしゃるのね?」
「ええ・・」
少し曖昧な返事の仕方をした。
「ほら・・今、あそこに・・エレベーターの前です。」
白衣を着て、カルテのようなものを抱えているのが見えた。なぜか、昨日会ったレイとは別人のように一樹は感じていた。声を掛けようとしたが、エレベーターが到着し、そのまま乗り込んでしまった。
亜美は、案内のほうへ向き直ってから、
「ねえ、新道先生にお会いしたいの。取り次いでいただけませんか?」
「すみません。ここから、新道先生には連絡が出来ないことになっています。」
「それじゃあ、どちらにいらっしゃるの?お会いしに行くから・・」
「新道先生は、14階の特別病棟の担当医です。ですが、14階へは一般に人は立ち入り禁止になっているんです。」
「患者の見舞いも?」
「ええ、重度の治療が必要な方専用になっているので、先生のIDがないと入れないよう、セキュリティも厳しくなっています。」
「じゃあ、どうやって連絡とか・・」
「院長先生を通じて連絡しています。ああ、時々、新道先生から連絡をいただくことはありますが。」
「じゃあ、院長先生にお会いできないかしら。」
「すみません。今、手術中になっています。・・おそらく明日朝までは出てこられないと思います。」

「おい、亜美。俺たちも突然やってきたんだ。会えなくても仕方ないだろう。出直そう。・・ああ、矢澤と紀籐という刑事が伺ったという伝言だけは頼むよ。」
「はい、承りました。」


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桜貝の想い出

ご訪問&nice!をありがとうございました。(^-^)
by 桜貝の想い出 (2010-09-07 11:35) 

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