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file3-5 葉山夫人 [同調(シンクロ)]

F3-5 
亜美と一樹は、病院の玄関を出た。
「なんだか、びっくりね。・・セキュリティが必要以上に厳しいと思わない?それに、どうして名前を偽ったのかなあ・・」
「ああ・・チラッと見えた姿も、白衣のせいか、まったく別人みたいだったしな。」
何か狐につままれたような感覚を憶えながら、二人は駐車場に戻っていった。
「なあ、亜美。レイさんと連絡を取る方法って・・携帯の番号知らないのか?」
「ええ、一度、レイさんから電話をもらった事はあるんだけど・・その番号へ返信できないのよ。」

車に乗り込もうとした時、二人の後ろから、声を掛ける女性が居た。
「矢澤さん、亜美さん!」
振り返るとそこには、葉山刑事の奥さんが紙袋を両手に提げて立っていた。
1年ほど前の窃盗事件のときの不幸な事故。コンビを組んでいた葉山刑事は、それ以来、意識が回復せずにいて、市民病院に入院していたのだった。

「あ、奥さん、お久しぶりです。」
一樹は頭を下げた。亜美も従った。
「こんなところ、お二人で・・何かあったの?」
「いえ・・ちょっと人に会いに・・すみません・・なかなか見舞いに行けなくて。」
忙しいわけではなかった。寝たきりになった同僚の姿を見るのが辛い事と、まだ犯人の手がかりさえつかめていない事への負い目もあり、なかなか病院へ足が向かなかったのだった。
「いいんですよ。」
「あれ? 葉山は、確か市民病院に入院してるんじゃありませんでしたか?ここへは?」
「あ・・連絡していませんでしたね。実は、急に、こちらの病院で、新しい治療を受ける事になって、先日入院したんです。」
「え?・・」
一樹には意外だった。市民病院で葉山の治療に当たっていた担当医は、葉山夫人の兄だったはずだ。そのために、事故の後、救急病院から無理やり転院していたし、特別室に入っていたはずだった。
「ええ、私もびっくりしたんです。・・こちらの病院長が直接お見えになって・・新しい治療法を試したいとおっしゃって・・迷ったんですけど・・全て病院側で面倒を見るからって・・」
「でも・・確か担当医は・・。」
「ええ。でも兄も、神林先生ならきっと治療成果があるに違いないからとすすめてくれたんです。」
確かに、入院後、葉山の意識の回復はまったく進展を見せていなかったし、限界を感じていてもおかしくなかった。
「私もびっくりしたんですけど、早速、昨日、少し反応があったみたいで・・気長に治療すれば意識が戻るかもしれないとおっしゃるんです。」
葉山夫人が、いつにもまして、明るい理由がここでようやく理解できた。
「そうなんですか。早くまた一緒に仕事が出来ると・・必ず回復すると信じてますから。また、見舞いに行きます。」

その話を聞いていた亜美が割り込んだ。
「入院されているって・・何階ですか?」
「おい、亜美。」
「ええ、最上階14階です。眺めも良くて快適なんですよ。ただ、完全看護で、付き添いは必要ないので、今から家に戻るところなんです。」
「それじゃあ・・レイさん・・いや、新道先生に治療を?」
「いいえ、院長先生よ。それに、新道先生ってどなた?」
「14階の特別病棟の担当医だと・・」
「うちは、14階だけど。・・ああ、そういえば、14階の隅に何か特別な部屋があるみたいよ。・・時々、出入している若い女の人がいるけど・・きっとあの人が新道先生というのね。」
「そんな・・まだ中にセキュリティがあるなんて・・やはり何か・・怪しい感じね・・」
亜美は、先ほどの案内での情報と葉山夫人の話を聞いて、レイに対して不審感を強めていた。

「あ。そうそう、昨日の夕方、変なことありませんでしたか?突風とか落雷とか・・」
「いえ、昨日は良い天気だったと・・何かあったんですか?」
「ちょうど、主人の治療中に、一時停電が起きたんです。短い時間ですけど・・真っ暗になったんです。」
「え?でも病院はそういう事態に備えた電気システムがあるはずですけど・・」
「ええ、市民病院ではそんな事はなかったんですけどね。・・院長先生は大丈夫だからとおっしゃって治療を続けて、そう、そのすぐあとに、主人の反応が会ったらしいんです。」
「へえ・・そんな事もあるんですね。」
「・・あっ・・すみません、もうこんな時間。そろそろ帰らないと・・昨日の事を主人の御両親にお伝えしたら、一度様子を見に行くからと・・もうすぐ駅にお着きになるのでが・・それじゃあ。」
一樹と亜美は、葉山夫人を見送った。

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