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file3-6 レストラン ヴェルデ [同調(シンクロ)]

F3-6 レストラン 
「署に戻るか!」
一樹はそう言って車のエンジンをかけた。
助手席に座りながら、亜美が
「あら、もう終業時間よ。・・ねえ、お腹すいちゃった。どこかでおいしいもの食べましょう。」
「報告は?」
「いいのよ。家に帰ってからパパに話せばいいんだから・・どうせ内密の仕事なんだし・・ねえ、どこかおいしいお店知らない?・・知ってるわけないか・・とにかく、ほら、湾岸産業道路で海を目指してよ。なんだか気分転換したいの!」

神林病院の駐車場を出ると、新しく整備された湾岸道路に乗った。ほとんど海上を走る形で整備された道路は夕方になって車両も増えていた。しばらく走ると工場群を抜けた。終点には、海浜公園があって、真夏ともなれば海水浴客も増える。平日とあってそれほどに人出はなく、静かな公園だった。その先には、半島に沿うように国道が岬の先端まで続く。夕日を右手に見ながら車を走らせる。

「そうだ。義彦のレストランへ行くか。」
義彦は、一樹の同級生で、オーナーシェフの父の後を継ぐつもりで働いているレストランが、この先にあるのを思い出した。
国道が大きく山手に迂回する交差点の角に「レストラン ヴェルデ」の看板があった。
そこから、海岸に降りるような道路が続いていて、目指すレストランは、ほとんど急斜面に張り付くように建っていた。赤レンガの装飾が施された壁には、ところどころに蔦が絡んでいて、意外に高級に見える。地元では恋人たちのデートコースにもなっているのだった。

ドアにはお決まりのカウベルがついていて、カランと音を立てた。
入り口には、レジカウンターがあり、義彦が立っていた。
「おやおや、珍しい人が・・なんだい、今日は非番か?いや、今、暇な部署にいるんだよな。」
義彦は、ちょっとからかう様に声を掛けた。
「お前こそ、まだ、厨房に入れてもらってないんだろ。そろそろ見切りをつける時期じゃないのか?」
「うるさいよ。これも修行の一つだからな。」

「こんにちは。」
亜美が後ろから顔を出して挨拶した。義彦と亜美は初対面だった。
「おや、なんだい。俺に内緒で彼女ができたのか。」
予想通りの反応をした。
「よせよ。そんなじゃないんだよ。」
「えー?私たち付き合ってるんじゃないの?」
亜美がおどけて、一樹の腕に手を回してじゃれるように言った。
「よせよ。亜美。勘違いされるだろ!こいつは亜美。紀籐亜美。署長のお嬢さんさ。」
一樹は、亜美の手を振り解いてから、半ば怒りながら紹介した。
「へー、じゃあ、お前、逆玉じゃねえか。・・将来は署長候補と・・警察はそんなわけにはいかないか。」
「だから・・そんなんじゃないんだって・・まあ、いいよ。・・何かうまいもの食わせてくれよ。」
「うちはみんな美味いんだよ。まあ、安月給の一樹を考えて、ディナーセットでいいだろ。」
義彦は、そう言いながら、階段下にある客席に案内した。
斜面に立っているせいで、客席は入り口から1階降りたところ似合った。全ての席が窓際に設えてあり、海を見ることができた。一樹と亜美は一番奥の席に座った。

「まあ、いい景色。デートにはぴったりね。一樹も案外いい店知ってるんだ。もう誰かと来た事あるの?」
亜美はからかうように聞いた。一樹は、ふと真剣な顔をして、
「実はな・・昔・・」
と言い出したのを見て、
「止めて!良いの。ほんの冗談よ。」
亜美は一樹の口から他の女性の話が出てくるなんて思いもしていなかったので少しうろたえた。
「ばーか!・・俺にそんな出会いがあったと思うのか?・・ここは昔、学生の頃バイトしてたんだよ。」

料理が運ばれてきたので、早速食べ始めた。二人とも食べながらほとんど口を利かなかった。
食べ終わり、コーヒーを飲み始めた時、ふと、亜美が口を開いた。

「私、ずっと考えていたんだけど・・レイちゃんの力と病院での秘密めいた状況、普通じゃないわよね。なんだか、謎だらけで少し不安よね。」
亜美はコーヒースポーンをカップの中でくるくると回しながら言った。
「ああ、チラッと見た姿も、同じレイさんとは思えなかったし・・良く考えると、何も知らないんだよな。」
「そもそも、最初の事件で、レイちゃんは、あなたを名指ししてきたの。どこであなたと接点があるのかもわからないままだし。」
「ああ、まったく出会った事もないしな。」
「それに、事件が終わるとすぐにどこかに姿を消しちゃうし・・」
「そうだな。それもおかしな話だ。迎えが来るとしても早すぎるし、何より、置手紙で消える必要はないはずだからな。」
「私たちの仕事は、レイちゃんのこれ以上辛い目に逢わさないように守る事よね。だったら、もっと彼女の事を知るべきだわ。でないと守りきれない。」
「ああ。」
「ねえ、明日からレイさんのこと、少し調べてみましょう。」

二人はレストランを後にした。
「ねえ、これからどうする?」
亜美が少し甘えるような声で一樹に訊いた。
「これからって・・もう帰って寝るだけだろ。」
「詰まんないー。一樹にその気があるんなら、私は構わないわよ?」
「何言ってるんだか・・大体、何しようっていうんだよ?」
「何って・・ほら・・そこに綺麗なネオンサインで休憩OKってあるじゃない。」
一樹はどぎまぎした。いつもの亜美らしくない目をして一樹を見ているようだったからだ。
「ば・・馬鹿言ってんじゃないぞ!」
一樹はそういうと真っ赤になっていた。
「俺はお前をそういう目で見たことはないんだ。・・この際はっきり言っとく。お前はどう思ってるか知らないがな・・お前は、その・・・」
「あら?一樹って見た目以上に、純情なのね。安心したわ。」

一樹は無言で車を署に走らせた。一樹は署に着くと、亜美を残して、さっさと車を降りて、アパートに戻っていった。


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