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file4-5 ユウキの失踪 [同調(シンクロ)]

F4-5 ソフィアの話
「いなくなったって、どういうことだい?」
一樹はソフィアをなだめながら話を訊きだした。
「昨日の夜、店の手伝いの約束だったの。でも時間に来なくて・・携帯で連絡したんだけど出なくて。それで、朝、アパートに行ったけど、鍵は閉まったままで、誰もいないの。」
「急に予定が変わって、帰国したんじゃないのか?」
「ううん。あの子は、帰らなくても良くなったって。次の仕事を決めたからって。それで、昨日は店の手伝いをしてもらうのも最後だし、お祝いをしようかって待ってたのよ。でも、何の連絡もなくて来ないから、心配で・・」
「友達とか・・同じアパートの人とかは?」
「ええ・・昨日の夜は部屋には戻ってきたみたいだけど、その後の事はわからないの。」
「心当たりは?」
「全くないの。・・それで、ほら、この前言ってた、手術の話。あの子、一応OKしたらしいから、あれから連絡があったんじゃないかと思ってね。」
「でも、店でやめておく様に言ったじゃないか、怪しい話だぞって。」
「ええ、あの子も、やめるって言ってたし・・でも、居なくなるなんて、それしか思い当たらなくて・・」

一連の会話を後部座席で聞いていた亜美が口を挟んだ。
「ねえ・一樹、この人は?」
一樹は、亜美の存在をほとんど忘れてしまっていて、声を聞いて驚いた様でもあった。
「あ・・すまん。彼女は、ソフィア。俺が行きつけにしている店のママなんだ。・・ほら、今調べてる怪しい情報を聞いた店さ。」
「そうなの・・で、居なくなった子は?」
「店の手伝いをしていたんだ。・・名前は・・ええと・・」
「ユウキって言います。まだ二十歳になったばかり。この工場を解雇された日に門の前で勧誘を受けてて・・」

亜美はようやく会話の中身を理解した。
「ねえ、その・・ユウキさんのアパートへ行ってみましょう。」

3人はユウキのアパートに着いた。2階建ての小さなアパートで、ユウキの部屋は2階の角だった。大家は同じアパートの1階に住んでいた。亜美が警察バッジを見せ、事情を話すと、大家の老婆は怪訝な顔をしながら鍵を手渡してくれた。3人はぎしぎしと音を立てる外階段を上がっていき、通路の一番奥にあるユウキの部屋へ向かった。通路には、子供の三輪車やバット等が散乱していた。帰っているかもしれないと思い、ノックした。しかし、返答はなかった。
大家から受け取った鍵で、錠を開け中に入った。狭い玄関には赤いスニーカーやサンダルが綺麗に並べられていた。アパートの隣には大きなビルが建っていて、昼間でも薄暗かった。壁のスイッチをつけると天井のペンダントライトが点灯し、部屋の中を照らした。部屋の中は綺麗に片付いていた。

「特別、変な様子はなさそうだな。」
一樹が一通り部屋の中を見回してから言った。亜美は、カバンやテーブルの引き出し等を開けていた。何かメモのようなものが残っていないか調べていたのだ。
「いえ、変よ。ほら、カバンの中に財布がある。どこかに出かけるのなら、財布くらいは持っていくでしょう。」
ソフィアも、玄関の靴を見て、
「あの子が好きでよく履いているスニーカーもあるし・・何だか、部屋の中から出ていないって感じ。」
風呂やトイレの中も見てみたが、特に変わった様子はなく、突然、この部屋から消えてしまったようだった。
一旦、部屋から出て、周辺に昨夜の様子を聞いてみることにした。

隣室には家族が住んでいた。・・ソフィアと同じように、日系人の家族のようだった。ソフィアは、ある程度面識があったので、もう一度、昨夜の様子を聞いてみることにした。
ノックをすると、声がして、大柄な御主人らしき男が、通路にある小窓からちょっと顔を出した。
「昨日の夜の事なんだけど、何か変わった事はなかったかしら?」
ソフィアが尋ねると、
「何もない。静かだった。」
男は、そう答えるとピシッと小窓を閉めてしまった。一樹たちが居た事で警戒したようにも見えた。
4部屋ほどある2階のほかの部屋は不在のようだった。

大家に鍵を返そうと訪ねると、どこかへ出かける様子だった。
「ああ、鍵は持っといて良いよ。警察の人なんだろ。また、返してくれれば良いから。」
「昨晩、何かありませんでしたか?」
「いや、気が付かなかったねえ。ここはほら、外人ばかりだから、時々うるさくするんでいちいち気にしてられないよ。・・毎日、大きな車がやってきては大きな音楽で騒ぐしさあ、そうそう昨日も黒い大きな車が来てたねえ。2階の誰かの知り合いだろ。それより・・わたしゃ忙しいんだ、もう出かけるからね。」
そう言うと、忙しそうにどこかへ出かけていった。

「何もなかったわけじゃなさそうだな。・・誰かが来てユウキを連れて行ったのかもしれないなあ。」
一樹はそう呟いた。その言葉を聞いて、ソフィアはその場に座り込んで泣き出してしまった。
「とにかく、一度、署に戻ってからどうするか考えよう。」
一樹は、ソフィアの肩を抱き、慰めた。


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