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-ナレの村-6.鷹 ハヤテ [アスカケ第1部 高千穂峰]

6.鷹 ハヤテ
 森で見つけた怪我をした鷹は、父ナギが、折れた翼に添え木をして手当てをした。鷹は、父ナギの手にいるときは、まったく暴れることなく、おとなしかった。
カケルは、母ナミから竹を使って鳥篭をこしらえる事を教わり、一日かけて、丁寧に作った。
「鷹は肉と魚が餌になる。しばらく、カケルは鷹の餌集めをしなさい。」
父ナギに言われ、カケルはしばらくの間、餌取りに励んだ。
魚は、西の谷の淵に行けば、いくらでも獲れた。鷹に魚をやると、器用に足で掴み、啄ばんだ。
だが、肉となる動物には困った。村でも、男たち総がかりで、イノシシやウサギ等の猟に行くのだが、獲れないことも多く、鷹の餌の為に肉を分けてもらうなどできなかった。
しばらくの間は、そのまま、魚の餌を与えていたが、次第に食べなくなり、元気がなくなってきたのがわかった。

「父様、ハヤテに肉の餌をやらないとだめかな。」
竹籠の中の止まり木にとまっている鷹を見つめながら、カケルがぼんやりとした表情で呟く。
「ハヤテ?・・こいつの名か。・・・なんだ、獲物が取れないのか?」
「・・・う・・ん。・・・」
「お前、サチ(弓矢)は使ったことはあるか?」
「・・ううん、ない。・・・。」
「鷹の餌になるものは、畑を荒らす野ねずみやウサギだ。サチ(弓矢)があれば、捕まえる事もできよう。」
「・・でも・・サチ(弓矢)は持ってない。父様のは使えないんでしょ。」
「ああ、あれは、命(みこと)の分身だからな。そうか、それなら、サチ(弓矢)をこしらえるか。そろそろ、自分のものを持つころだろう。さあ。」
ナギはそういうと、カケルと一緒に、家の前に出た。二人は、弓を作るために、タカヒコの家に行った。タカヒコは、3人息子の父で、村一番の弓の名手だった。
「タカヒコ、サチを作ってもらえまいか・・」
家の前で、矢の手入れをしていたタカヒコは快く引き受けてくれた。タカヒコは、カケルの肩を掴んでから、
「うむ。・・お前、いくつになった?」
「八つになりました。」
「そうか・・その割りに力があるようだ。お前には強い弓を作ってやる。強く、遠く、大きな獲物も貫ける強い弓だ。最初は、引けないかも知れぬが、そのうちに引けるようになる。まあ、任せとけ。・・・そこにある櫨の木を取ってくれ。」
タカヒコはそういうと、家の前に立てかけてある弓にする木の束を示した。
「いいか・・できるだけ太くてまっすぐしたものを選べ。」
カケルはその中から白くまっすぐ伸びているものを選んで渡した。
「おお、良いのを選んだな。そうだ、これなら丈夫だ。いいか、お前が使いたいものを見極めるんだぞ。」
そう言って、タカヒコは、カケルに削り方を教え始めた。その様子を見ながら、ナギが、
「よし。俺が弦を用意しよう。タカヒコ、命(みこと)が使う太い弦で良いな。」
「ああ。カケルなら必ず使いこなせるだろう。」
何とか形になったところで、弦を張った。
「よし、次は矢だ。三本作るんだ。鏃(やじり)は、黒石で良いだろう。ひとつ削ってあるから、よくよく見て、あと二つ自分で作るんだ。・・それと、矢羽には鷹の羽が良い。お前が飼っている鷹からもらおう。尾羽を1本抜いて来い。」
そう言われて、カケルは竹籠に走った。竹籠の中に手を入れ、カケルは尾羽を抜こうとした。鷹はじっとカケルを見ていた。
「ハヤテ、すまない。羽を分けてくれ。」
カケルがそう言うと、承知したかのようにハヤテは尾をカケルに向けた。
尾羽を持っていくと、タカヒコは見事に半分に割り、矢の尻に埋め込んでいった。

「よし、いいサチができた。これなら永く使える。お前が大人になっても充分だ。」
タカヒコはそういうと、カケルに手渡してくれた。初めての自分のサチ(弓矢)を手にして、カケルは手が震えた。そして、体の中に何か熱くなるものを感じ、鼓動が高鳴った。
「どうした?さあ、引いてみろ。」
タカヒコとナギが微笑んでみている。カケルは大人たちが弓を引く姿を思い出しながら、左手に弓を持ち、矢を指に挟んで弦に合わせた。そして、力いっぱい引いた。ぐいっと弓は撓る。そして、矢の先を、柵の方へ向けて放った。びゅうと音を立てて、勢いよく矢が飛んでいく。すると、柵に吊るしてあった干し肉を矢は貫通した。

鷹.jpg

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