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-ナレの村-7.サチ(箭霊)封印 [アスカケ第1部 高千穂峰]

7.サチ(箭霊)封印
タカヒコもナギも驚いた。初めて弓を引いたはずなのに、カケルの放った矢は、驚くほどの威力で大人でもなかなか射抜く事が難しい干し肉を見事に貫通した。
「もう一度引いてみろ。」
タカヒコは驚きを隠せずに言った。カケルは同じように構え、引いた。また同じように、干し肉に刺さった。
「よし、もう一度、干し肉を狙って見ろ。」
今度はナギが言った。同じように構え、更に力をこめて弓を引き放った。三本目の矢は、大人でもなかなか出せない笛のような高い音を立てて飛んで、干し肉の、それもさっきの矢を貫くように刺さった。

タカヒコとナギは顔を見合わせた。信じられない気持ちだった。まだ八つの子どもの放つ矢ではなかったのだ。そこに、高楼の上から様子を見ていた巫女セイが現れた。
「セイ様・・カケルのサチ(箭霊・弓矢)の腕前が・・」
ナギがそう言い掛けたのをセイは制止するように手をかざした。そして、
「この子のサチ(弓矢)は、封印すべし。」
厳しい声でそう告げた。
「ですが・・・セイ様、これだけの腕前なら、すぐにでも猟に連れて行けます。村の者も、ひもじい思いもせずに済むやも知れませぬ。」
ナギは、そう言ったが、巫女セイは首を横に振った。
「どうやら、カケルは幼いながら、恐ろしい力を持っておるようじゃ。使い道を誤るといのちを落とす事になる。いや、この村に災いとなるであろう。・・良いか、この子がアスカケに出る日まで、サチ(弓矢)は封印じゃ。・・カケル、良いな。このサチ(弓矢)は私が預かる。十五になる年にお前がアスカケに出るのなら、その時に返そう。」
そう言うと、カケルの手からサチ(弓矢)を取り上げた。
「セイ様!・・ハヤテの餌を獲るために、サチ(弓矢)が欲しいんです。」
カケルはそう言って、巫女セイに取り縋った。
「あの鷹は、すでに飛べるようになっておる。竹籠から出してやれば、自分で餌を獲る。さあ、竹籠から出したおやり。」

カケルは、巫女セイに言われるまま、竹籠を開けた。
羽の添え木をそっと取ってやると、ハヤテは、しばらくは、止まり木にじっとしていたが、辺りをじっと見渡し、一度身震いをしたと思うと、羽を広げ一瞬のうちに飛び上がっていった。村の上を3回ほど回った後、高千穂の峰のほうへ飛び去っていった。

カケルのサチ(箭霊)の腕前は、すぐに村人の知るところとなった。初めて引いた矢が肉を貫通するなど、並みの男でもできる事ではない。巫女セイが封印した事で、それは、さらに、村の伝説というべきものに変わってしまった。

次の日、カケルは、いつものように西の谷に行き、銛を使って魚取りをしていた。
上空にハヤテが旋回している。カケルが水から顔を出すと、ハヤテは上空から急速度で降下し、水面すれすれに飛んできた。カケルに挨拶でもするかのような飛び方だった。二度ほど繰り返したあと、今度は水面を泳いでいた魚を足で掴んで飛び上がり、岸に魚を落としたのだった。
岸にいたイツキが言った。
「ハヤテがお礼に魚をくれたのかなあ。」
「そんなことはないだろ。上手く掴めなくて落としちゃったんだろ?」
しかし、同じようにもう一度ハヤテは魚を掴むと二人のいる岸辺に落としたのだった。
「ほら、やっぱり、そうよ。・・・カケルが手当てをしてくれた御礼をしてるのよ。」
「そうかあ・・ありがとう、ハヤテ。」
カケルは、上空を旋回しているハヤテに手を振った。ハヤテは甲高い鳴き声で答え、飛び去っていった。

「でも、せっかく、サチが上手いのに使えないなんてね・・」
イツキがつい口走ってしまった。カケルは、
「いいんだ。僕もちょっと怖かったんだ。サチを持った時、ここがドキドキして苦しかったんだ。なんだか変な気持ちだった。それに、やっぱり、こうやって魚を獲るほうが楽しいし・・」
「そうなの?ならいいわ。でも、私も見たかったなあ、カケルのサチを射るところ。」
イツキはそう言うと、山桃の木にするすると登っていった。

はやぶさ4.jpg
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