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-ナレの村-8.水足(みたり)の御川 [アスカケ第1部 高千穂峰]

8.水足(みたり)の御川
ケスキがアスカケに旅立ってから、夏が過ぎ、秋、冬、そしてまた春になっていた。
カケルもイツキも、少し大きくなった。以前のように、畑の手伝いや川で魚とり、木の実集め等をしながら過ごしていたが、徐々に大人の仕事の手伝いが増えるようになっていた。
カケルは、時々、男たちに混じって、山の猟にも付いていくようになった。
イツキは、冬の間に、機織りを覚え、天気の悪い時などはずっと篭って過ごすようにもなっていた。
ナレの村の西側には、谷に向かって流れ落ちるように、幅2間ほどの水路がある。もともと、小さな川だったところを、先人たちが川幅を広げ、田畑のあるところまで水を引くために水路にしたのだった。
この川は不思議な事に、1年のうち、半年近くは枯れている。春、辺りの草が花を咲かせ、緑が濃くなる頃に突然水を噴出し、秋、収穫を終え冬支度に入る頃にはまた枯れてしまうのだった。だから、村の者は、「水足り(みたり)の御川(おんかわ)」と呼んだ。この川に水が噴き出す頃、農作物の植え付けを始め、枯れる頃には、厳しい冬に向け蓄えをしていく。暦のような川であった。

今日は、朝から村を上げて水路の掃除をすることになった。昨夜、巫女セイが、水神様のお告げを聞いたと言い、村の命(みこと)達が集まって相談し、水路の掃除と祈りをする事に決まったのだった。
子どもたちも、大人に混じって水路に入り、川底のごろ石をどけたり、伸びた草を刈ったり、土手を修復したりしながら、汗を流した。水路の両脇には、ノカイドウや山つつじの花が咲き始めていた。
しばらくは、大人に混じって手伝いをしていた子どもたちも、エン・セン・ケンの3兄弟が、木登りを始めたのをきっかけに、水路の掃除をやめてしまい、土手に上がって遊んでいた。
エン・セン・ケンの3兄弟はみな年子で、一番上のエンはカケルと同い年だった。長男のエンが、野いちごを見つけた。兄弟は競うように野いちごを摘み食べた。知らぬうちに、森の中にはいっていた。
ナレの村の周りの森は、子どもたちが遊ぶのを禁じていた。太古、高千穂峰が噴火した後、溶岩の流れた跡が大きな空洞となっていて、森の中にはそこかしこに深い穴が口を開けていたからだった。そこに落ちれば、子どもでは、這い上がる事は不可能だった。3人はその掟をすっかり忘れ、ずんずんと森の中に入っている。次男のセンが、ふと気づいて兄に、
「ねえ、兄ちゃん、もう戻ろう。森は入っちゃならないって父様も言ってたし・・。」
その言葉に、エンは、
「大丈夫さ。まだ、みたりの御川が見える。すぐそこにあるじゃないか。」
そう言って、振り返って指差した。確かに、木々の間から、みたりの御川がわずかに見えていた。しかし、
「おい!ケンはどこだ?」
辺りを見回したが、末っ子のケンの姿が見えない。
「え?さっきまでそこでイチゴを食べてたけど・・・」
二人は、ケンの名を呼んだ。どこか遠くからかすかに返事の声が聞こえる。二人は、その声のするほうへ急いだ。しかし、辺りには姿が見えない。じっと耳を澄ますと、その声は地中から聞こえていた。草の茂る中を手探りで声を頼りに探した。すると、体がすっぽりと入るほどの大穴の底の方から声がする。ケンは、穴の中へ落ちてしまったのだった。エンとセンは、穴の中に顔を突っ込んで様子を見ようとした。だが、穴の中は真っ暗で、ひんやりとした風が抜けてくるだけだった。
「ケン、すぐ、父様を呼びに行け。判るだろ、ほら、そこに御川がある。あそこに出て、下っていけば父様がいるはずだ。」
そう言われて、ケンはすぐに走り出した。
土手にはイツキとカケルがいた。川の土手に生えていた野いちごを摘んでいた。血相を変えて飛び出してきたケンを見て、イツキが訊いた。
「どうしたの?」
「センが・・森の中で・・穴に落ちた・・父様を呼びにいく。父様は?」
「皆、祠に向かったわ。もうじきお祈りを始めるからって・・。」
祠は、みたりの御川の水が噴出す水穴にあった。掃除を終えて、村人たちは、奉げ物を持って祠に向かったのだった。
「私が行ってくる。場所を知ってるのはケンだけだから、ここで待ってて。」
イツキは、水の流れていない御川を上流に走っていった。
カケルは、じっと森の中を見ていた。カケルは、人並みはずれた聴力と視力を持っていた。岸に生えている欅の幹に登り、辺りを見回し、すぐに、穴の場所を見つけると、枝から大きく飛び上がり、木々を縫うようにして、森の中へ入っていった。

mitarasigawa.jpg

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erucat

この川を見てみたい 撮ってみたい
そう思わせる美しさですね^^
by erucat (2011-02-08 16:20) 

苦楽賢人

erucatさん、コメントありがとうございます。

霧島神宮の傍を流れる「御手洗川」です。

今回のお話に、どうしても、霧島の七不思議を入れたくて・・。

憧れの地ですが・・今・・新燃岳の噴火で大変だと思います。
このお話で、少しでも霧島への想いを伝えたくて・・。
by 苦楽賢人 (2011-02-08 17:57) 

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