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-ナレの村-9.地下の洞 [アスカケ第1部 高千穂峰]

9. 地下の洞
穴の脇では、エンが必死に声を掛けていた。
「今、父様を呼びに行ったから・・待ってるんだぞ!」
暗闇の中で、センは半べそをかいていた。その内、何か穴の中で音がし始めた。その音はゴーゴーと響いて聞こえる。
「兄ちゃん、なんか聞こえる。怖いよう・・・。」
そこにカケルがやってきた。
「エン!ケンは?」
「この中だよ。何か音がするって・・・どうしよう、何か魔物でもいるのかな?」
カケルは地面に耳をつけて音の正体を考えていた。まだ9歳の子どもにその正体がわかるはずもなかったが、じっと耳とつけて音の様子を探った。
「何か、近づいてきてるみたいだ。・・・」
「掟を破って・・森に入ったから・・森の神様が怒ってるのかなあ・・・」
穴の中から、ケンが、弱弱しい声で言った。
「兄ちゃん・・・冷たいよう・・・水が・・・冷たいよう・・・」
地中の空洞に、水が入って来たようだった。
「エン!僕の足を持ってて。頭を入れてみる。」
そう言われ、エンはカケルの足を持った。カケルは穴の中に体を入れて中を覗いてみた。最初は、真っ暗で何も見えなかったが、徐々に目が慣れると様子がわかってきた。ケンは、穴の底に立っていた。膝辺りまで水に浸かっている。手を伸ばしてみると、あとわずかで届きそうだった。その時だった。
「うわっ!」
エンが耐えかねてカケルの足を離してしまったのだった。カケルは頭から真っ逆さまに穴の中に落ちたのだった。カケルは起き上がり、ケンの手を取った。
「ここにいちゃ駄目だ。もうじき、水がたくさん来る。逃げよう。」
カケルはそういうと、耳を澄まして音のする方向を定めた。そして、それとは反対の方向にケンの手を取って、駆け出した。ケンは真っ暗闇で何も見えなかったが、カケルには穴の様子がちゃんと見えていた。
二人は必死で走った。途中、ケンは何度も転びそうになりながら、その度に、カケルに起こされた。しかし、足元の水嵩は増えるばかりだった。腰辺りから肩口くらいまで水はどんどん嵩を増した。もうほとんど泳ぐような格好になっていた。

イツキは祠に着き、ケンたちの父タカヒコに事情を説明した。それを聞いたカケルの父ナギも心配して、タカヒコとともに穴に向かった。穴に着くと、エンとセンが穴の脇にいた。父タカヒコの顔を見るなり、二人は大声で泣いた。
「カケルも・・・落ちた。・・水がたくさん来て流された・・・ごめんなさい・・ごめんなさい。」
泣きじゃくりながら、説明した。タカヒコは、二人を抱きしめた。そして穴を覗きこんだ。
「随分、水が入ってきているな。二人とも流されたか。」
カケルの父ナギは、じっと考えた。そして、皆にこう言った。
「よし、祠に戻るぞ。・・大丈夫だ。カケルが一緒なら、きっと大丈夫だ。」
地下の洞の中で、カケルとケンはもうほとんど肩口まで水に浸かり息をするのもやっとの状態だった。ケンは暗闇の中で何も見えず、カケルの腰紐を強く握っていた。二人の足元を何かがすりぬけて行った。カケルは水面に顔をつけてみた。少し前方に、金色に輝くような大きな鯉が泳いでいる。暗闇の中でもそれは輝いていた。そして、着いて来いというようにゆったりと泳いでいる。
「ケン、もう少しだ。すぐに出口だ。」
「そうかい?・・まさか、黄泉の入り口じゃないだろうねえ。」
「黄泉?」
「ああ、お婆様(おばば様)から聞いたんだ。土の底に、黄泉の入り口がある。そこに子どもが入っちゃならないって・・。」
「大丈夫だ。きっと水神様が守ってくれる。さあ行こう。」
そう言うやいなや、背中を押されるように流れが強くなった。いや、流れが強いのではなく、小魚の群れが背中を押しているのだ。
「あっ!」
「わあっ!」
二人は急に深みに落ちた。洞が急に狭まり。地中深くに落ち込んでいたのだった。もう、どちらが上か下かわからない状態で、水流に流された。だが、二人の周りには小魚たちがまとわりついて岩にぶつかるのを防いでくれていた。カケルは、水流の中で確かに魚たちが自分たちを取り囲み、守ってくれているのを見たのだった。一旦、落ち込んだあと、急に上昇し始めた。そして、明かりが近づいてきたような気がした。

樹海.jpg

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