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-母と子‐2.諦め [アスカケ第1部 高千穂峰]

2.諦め
毎夜、女たちがこっそり館に集まっているのを命(ミコト)たちも気付いていた。
ある晩、女たちがいつものように薬草とおぼしきものを抱え、館に集まり、ひとつひとつ吟味しているところに、ナギをはじめ数人の命(ミコト)がやってきた。
「お前たち、何をしているのだ。」
その声に皆持ってきた草を懐にしまったが、遅れてやってきたハルが様子を知らずに草をもって入ってきた。そして、
「セイ様、この草はきっと薬草です。さあ。」
と言った。皆、入口に立っていたハルを見た。セイが観念したように、事情を説明した。

「そんな無茶な事。仮に薬草が見つかったとしても、お前たちが試してもし命を落とす事になったらどうするのだ。・・・そんな事、ナミは望んではいない。・・・ナミの命が尽きるのは天の定め。受け入れる覚悟は出来ている。だが、お前たちの命を絶つような事は許さない。」
ナギは、強く咎めるようにそう言い放った。そして、
「セイ様。もう充分です。皆にやめる様に言って下さい。」
ナギの目からは涙が零れていた。皆の心遣い、努力を決して否定するのではなく、ナギとしても直せるものならばと考え、日々、ナミの体に少しでも滋養になるものをと必死で探し食べさせてきた。だが、ナミの辛さは想像以上であったのだ。毎夜、苦痛に喘ぎながらも、ナギや子どもたちに心配をかけまいと必死に堪えるナミの辛さもそばに居て一番わかっている。
女たちも、ナギの思いを強く感じ、ともに泣いた。自分たちの無力さを痛いほどに感じながら、ともに泣いた。
イツキは、女たちが毎夜集まる事をミコトたちよりも先に知っていた。そして、その晩もこっそり館の物入れの中に身を潜めていた。ナギと女たちの泣く様を目の当たりし、イツキも一緒に泣いた。
次の日、イツキはカケルとともに、西の谷の川に行った。イツキは、ヤマモモの木に登り、実を集めながら、昨夜の出来事をカケルに話すべきか考えていた。
イツキは母を病気で亡くし、ナミに育てられた。今では、実の母以上に大切な存在である。病を治したい想いは、きっとナギやカケルに負けるものではなかった。しかし、自分の力で出来る事等なく、悔しくて悔しくて仕方なかった。薬草探しが中断され、もはや、村の人もナミを病から救う事を諦めている。しかし、イツキにはどうしても諦め切れなかった。

「ねえ、カケル。」
イツキは思い切ってカケルに昨夜の出来事を話した。カケルはじっとイツキの話を聞くと、こう言った。
「とと様も、ずっと薬草を探していたんだよ。今朝、とと様が言ったんだ。村の人たちにはこれ以上迷惑を掛けられない、かか様も体が痛くて、長くないだろう、覚悟しておくんだって。」
「そうだったの・・・。」
「だけど、俺は諦め切れない。きっとかか様の病を治してやるんだ。・・・だけど、薬草がどんなものかも判らないんだ。」
そう言うと、カケルは今まで秘めてきた悔しい想いが胸にこみ上げてきて、大粒の涙を流し、泣き始めた。イツキもカケルの涙につられ、ともに泣いた。しばらく泣いた後、ようやく正気に戻った二人は、何か出来る事は無いかを考えた。
「イツキ、皆はどんな草を探していたんだ?」
「判らない。でも、館に赤い色をした大事な書物があって、それを開いてみていたみたいだった。」
「そうか・・・その書物を見れば何かわかるんだな・・・。よし、その書物を見に行こう。・・昼間、誰も居ない時こっそり入ればいいだろう。」

二人は、翌日、巫女セイが館を出るのを確認して、こっそり、館に忍び込んだ。そして、祭壇の周りを探した。書物は祭壇の下の棚に仕舞われていた。
「ねえ、カケル。書物の中身がわかるの?」
「大丈夫さ。かか様から文字は教わってる。きっといつか役に立つからと、かか様が教えてくれたんだ。イツキにも教えてくれるって言ってたが、病になってそうもいかなくなったんだ。」
二人は書物を開いた。上・中・下の文字、草・木等に分かれて書物は書かれていた。文字を一つずつ辿りながら、病の事・草や木の特徴などを読んで行った。もちろん、まだ判らない文字もたくさんあった。挿絵も描かれていたが、どれも目にしたことは無いようなものばかりだった。
館の外で、巫女セイの声がした。二人は急いで書物を棚に戻すと、見つからぬように館の窓から外に出た。
「だめだ・・すぐには判らない。明日もう一度書物を見に行こう。」
二人は、次の日も次の日も書物を見るために館に忍び込んだ。
四日目の事だった。イツキが書物を開いていた時、
「これ、見たことある。西の谷で・・・」
カケルは、イツキが示す挿絵をじっと見つめた。
「うん、これ。確か・・・見たことある。・・・これ、病に効くのか・・・良し、これを取ってこよう。そして、巫女様に見てもらうんだ。」
挿絵にあったのは、奇妙な形をしたキノコだった。

ヒヨドリジョウゴ1.gif

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