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-母と子-5.滝 [アスカケ第1部 高千穂峰]

5.滝
一息つくと、二人は、来た時に渡った大岩を目指した。水かさの増してきた川を右手に見ながら、ようやく大岩の場所に辿りついたが、来た時よりも増した水に、大岩はわずかに頭が覗いている程度だった。
「だめだ、ここは渡れない。」
「どうする?」
「もう少し、上のほうへ行ってみよう。」
水かさが増えた川を渡るには、川下に行くよりも、上流に行けば流れも小さく、川幅も狭くなるのをカケルは知っていた。すでに二人とも来た事のない場所に足を踏み入れていた。
「大丈夫?」
イツキはまた不安がこみ上げてきて思わず訊ねてしまった。その様子をカケルは察した。
「大丈夫さ。前にとと様から聞いたことがある。神川の上のほうには、滝がある。その滝の後ろに人が通れる道があるって。・・昔の人が作った道らしい。だからそこまで行けばきっと向こう岸まで渡れるはずさ。」
カケルはわざとゆっくり落ちついた様子でそう言った。徐々に雨脚が強まってきた。イツキは、自分が思う以上に、体が冷え切って、体力を失い始めていた。足元が怪しくなり、カケルにすがりつかなければ歩けなくなりつつあった。

その頃、ナレの村では、村の周りを探したが二人の姿が見当たらず、やはり山へ探し手を出すべきかどうか、再度相談していた。
「ナギよ。この辺りには二人はおらんぞ。やはり、山へ入ったのだ。」
タカヒコがナギにそう言って、探し手を出すべきだと提案した。
「ああ、おそらく、山へ入って薬草を探しておるのだろう。・・・だが、この雨だ。探し手も危ない目にあうやもしれぬ。今しばらく様子を見よう。」
「だが・・カケルはいかに山に慣れておるとはいえ、まだ子どもだ。我らとて不安なのだ。二人はもっと不安を感じておるに違いないぞ。日暮れになれば、探す事もままならぬぞ。」
ナギは思案した。西の谷に降りたのなら、カケルには慣れた場所、どこかに身を休ませる場所もわかるだろう。だが、もし、御山へ登ったのなら、帰る道を見失っているかもしれない。どうすべきか悩んでいた。
そこへ、巫女セイが書物を抱えて現れた。
「二人はおそらく、西の谷にある、ぶなの森にいるのであろう。」
そう言って、書物を開いた。そこにはあの奇妙なキノコの絵が描かれていた。
「この絵のところに折り目がついておった。今まで開いた事のないところじゃ。きっと二人はこれを探すために西の谷に向かったはずじゃ。あそこにはぶなの森がある。」
「そう言えば、一度、森の入り口でそのキノコをイツキに問われた事があった。」
ナギは決断した。
「悪いが、俺と一緒に、西の谷へ行ってくれないか。」
タカヒコ他3人のミコトがナギに従った。
「日暮れまでに戻れないかも知れぬ。松明も必要になるだろう。万全の支度をして行こう。」

かなりの上流まで来たはずだが、カケルの言う大滝は見えなかった。神川にはいくつかの支流が流れ込んでいる。本流には確かに、カケルの言うような大滝があった。しかし、川が増水し、普段ならせせらぎ程度の流れも、今では渡れないほどの幅に広がっており、二人は川沿いを登る中で徐々に本流から離れているのであった。
「滝が見えたぞ!」
カケルが言うと、イツキも見上げた。しかし、それは小さな滝で、とても裏側に通り道などないものだった。むしろ、滝壺は深く、濁流に押し流された流木が突き出し、向こう岸に渡ることなど不可能であった。
「カケル・・・私、もう歩けない・・」
イツキがその場に座り込んでしまった。見ると、イツキは顔色が真っ白になっていてがたがたと震えている。これ以上は無理だとカケルにも判った。
その時だった。どこからか、鷹の鳴き声が響いた。カケルはじっと空を見上げると、旋回するように一羽の鷹が舞っている。
「ハヤテがいる。そうだ、ハヤテを使おう。」
カケルが指笛を鳴らすと、上空からハヤテは一気に下降し、滝壺の脇に生えている木の枝先に止まった。もう一度、短く指笛を鳴らすと、カケルの腕に止まった。タケルが仕込んだわけではないが、いつしか、ハヤテはタケルの指笛に応えるようになっていた。
「ハヤテ、村に知らせてくれ。」
そういうと、カケルは着衣の一部をちぎって、ハヤテの足に結び付けた。
「さあ、行け!父様にここを教えてくれ!」
ハヤテは、力強く羽ばたき、タケルの腕から上空へ舞い上がった。二度ほど旋回した後、村のほうへ向かって行った。
「頼んだぞ、ハヤテ!」

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