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-母と子-6.火起こし [アスカケ第1部 高千穂峰]

6.火起こし
ハヤテが飛び去ってから、カケルは、イツキを抱き起こし、滝の脇にあるくぼみまで連れて行った。ちょうど、張り出した岩のおかげで、雨に濡れずに済む場所だった。
「イツキ、ここで少し休もう。今、ハヤテを村にやった。きっと父様たちに知らせてくれる。ここで助けを待とう。」
イツキは、ぼんやりとした表情で頷いた。初夏とはいえ、日差しもなく、濡れた体のままでは更に冷え、体力を奪われる。カケルは、イツキをそこに残し、森の中に入っていった。
しばらくすると、カケルは、落ち木や葉をかき集めて戻った。雨に濡れた森の中でも、深い草の下には乾いた木や落ち葉はある。一抱えのそれらは、少しも濡れていなかった。
「イツキ、もう少し待ってろ。すぐに火を起こすからな。」
カケルはそういうと、乾いた木を、二本ほど、手にした。
腰につけた手刀を取り出し、太い木に切れ目をつけると、両足でしっかりと押さえ込んだ。そして、細い棒状の木を両手に挟むと力いっぱいに摺り合わせ始めた。父ナギから、火起こしの方法を叩き込まれていたカケルには、火を起こすことはそう難しい事ではなかった。
しばらくすると、うっすらと煙が上がり始めた。さらに擦り合わせるとはっきりとした糸のような煙の筋になった。そこに、よく揉んで粉状にした枯葉でそっと覆い、息を吹きかける。更に煙は大きく上がり、そのうちに、赤い火が見え始めた。息を吹きかけ、消えないように注意しながら、集めてきた落ち葉に移した。徐々に炎は大きくなった。

「ほら、焚き火の近くに来い。体を温めたほうがいい。」
そう言って、カケルはイツキを火の傍に来させた。冷え切っていた手足に炎の熱が命を与えてくれるようだった。
「もう少し、木を集めてくる。ここでじっとしてるんだぞ。」
カケルはそういうと、また森へ入っていった。焚き火の熱は、イツキの居るくぼみ全体を温かくしてくれる。イツキは疲れた体がじんわりと温まり、眠くなってしまった。
カケルが、再び、焚き火のあるくぼみに戻ると、イツキはすっかり眠ってしまっていた。

「ごめんな、イツキ。俺が、もっとしっかりしてれば・・・」
カケルは、そう言いながら、焚き火に木を入れると、自分の体を温めた。

ハヤテは一目散に村に向かっていた。村では、ナギたちが西の谷に向かう準備を整え、今にも出かけるところだった。ハヤテは急降下し、村の高楼の手すりに止まった。
「おお!ハヤテじゃ。・・おい、ナギ、ハヤテが来たぞ。」
村の長老が、高楼から声を掛ける。長老は、ハヤテに近づくと、足に結んである布を見つけた。
「・・お・・これは、カケルの服じゃな・・・お前、カケルとともに居たのか?」
ハヤテはピーっと鳴いて応え、羽ばたくしぐさをした。その様子を見て長老が、
「ナギ、きっとハヤテがカケル達の居場所を知っておる。案内してくれるじゃろう。」
ナギたちは、村の大門の前を今出ようとしていたが、そう聞いて、
「よし、ハヤテ!カケルのところへ案内してくれ。頼んだぞ!」
ハヤテは力強く羽ばたき舞い上がった。ナギたちは、行方を追うように西の谷へ向かった。

雨はいつの間にか上がったようだった。カケルも実際疲れていたのだろう、焚き火の傍でうつらうつらとしていた。雲の切れ間から、西に傾き始めた太陽の光が二人の居る窪みにも射し込んできた。少し眠った事で疲れも癒え、イツキも起き上がった。
「大丈夫か?」
「うん・・もう大丈夫。・・・晴れたね。」
そう言って見上げた空に、ハヤテの影が見えた。甲高い声で鳴き、カケルたちの居る窪みの上空を旋回している。
「きっと村に行ったはずだ。」
そう言って、カケルは立ち上がり、焚き火に落ち葉をたくさんかけた。少し湿った落ち葉からは、白い煙が大量に立ち上った。
「近くに、父様たちが来ているはずだ。こうやって狼煙をあげればきっと気づく。」

ナギたちは、一旦、西の谷の山桃の木のある淵へ向かった。だが、増水した川を見て、カケルたちは川上に迂回して対岸に渡ったはずだと判断し、川沿いを登っていった。西日に照らされ始めた頃、タカヒコが山影に上る狼煙の煙を見つけた。
「ナギよ!あれはきっとカケルの仕業だろう。」
そう言われ、ナギが空を見上げると、狼煙の煙の周りを、ハヤテが旋回しているのがわかった。
「あそこまで行ったのか。・・そうか、川を渡れずにいるのだな。よし、急ごう。日暮れまでには二人のところに行かねば。」
一行は、狼煙を頼りに上流を目指した。

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栃木の美容室からカキコミ

ブログの更新大変だと思いますが、応援しています☆

by 栃木の美容室からカキコミ (2011-02-17 16:12) 

苦楽賢人

栃木の美容室様、コメントありがとうございます。
拙いものですが、お楽しみいただければ幸いです。

アスカケー空白の世紀ーは、かなりの長編になりそうです。毎日、少しずつですが更新していきます。
ご感想なども書き込みいただけると嬉しい限りです。
by 苦楽賢人 (2011-02-17 17:56) 

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