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-母と子-8.命綱 [アスカケ第1部 高千穂峰]

8.命綱
ナギたちの居る岸辺に朝日が射してきた。ナギが、カケルとイツキの居る窪みを見ると、二人はまだ眠っているようだった。周囲を見ると、まだ川の流れは強く、滝つぼもかなり広かった。とてもここを渡るのは不可能だと思われた。
タカヒコやタツヒコも起き出して、同じように周囲を見渡していた。タカヒコが、滝の上はどうかと、岩壁をよじ登る。しかし、滝の上までは到達できず、諦めて戻ってきた。
「ナギよ、もっと川下で渡れるところを探したほうが良いのではないか?」
「ああ、ここは無理だ。・・」
そうしているうちに、カケルとイツキも起きたようだった。
「二人とも大丈夫か!」
ナギの声に、カケルとイツキが手を振って応える。
「大丈夫。」
「カケル!ここを渡るのは無理だ。少し川下に戻るぞ。」
「ハイ!・・・少し、下に大岩が並んでいるところがある。そこなら渡れる。」

カケルとイツキ、ナギたちは川下に向かって移動した。カケルたちが昨日川を渡った大岩の場所に辿りついた。まだ、水の流れが強く、岩の上は見えているが、落ちれば命はない。
「父様!・・長縄はありますか?」
「ああ、ある。」
「それを渡して支えにして、この流れを渡る。」
「しかし・・縄をどうやって掛けるのだ?」
カケルは指笛を鳴らした。昨夜からカケルの傍にいたらしいハヤテが空から降りてきた。
「ハヤテに縄を持たせて、両岸にかける!」
「よし、判った。」
ハヤテは、カケルの言うとおり、ナギのいるところに飛び、足に縄を掴んでカケルのところに戻ってきた。縄の両端を、川岸の木にきつく結んだ。
「緩まぬよう、二重捲き結びにするのだぞ!」
カケルは、縄を編む練習とともに、縄の結び方を習っていた。太い縄は緩みやすい。二重巻き結びは、カケルが一番最初に覚えた結び方で、縄が多少揺れても解ける事はなかった。
「ナギよ。この縄を伝って渡るにはかなり力が要るぞ。まして、イツキを抱えては来れぬぞ。」
様子を見ながらタカヒコが問う。そして、タツヒコが、
「わしが行こう。力はある。イツキを背負って渡れぬ事もあるまい。」
どうしたものかと相談しているうちに、対岸ではカケルが縄を太いクヌギの木に縛り終えていた。

「イツキ、この縄を伝って向こう岸へ行くんだ。」
「でも・・怖いよ・・」
「大丈夫。ほら、こうやって・・」
カケルはそういうと、村を出るときに持ってきた縄を取り出し、端を輪にしてイツキの体に結んだ。そして、その縄を渡した長縄にかけ、もう一方の端を自分の体に同じように結んだ。
「こうすれば、縄が抜ける事もない。イツキが流されても俺が引っ張る。二人で、縄をしっかり握ってゆっくり行けば大丈夫さ。」
イツキはカケルの目をじっと見つめ、安心したように頷いた。
「父様!これから渡る。長縄が緩まぬよう見ておいて。」
「カケル!岩の後ろは深みがある。流れはきついが岩の前を来るのだぞ!ゆっくりで良い。」
二人はゆっくりと川の中に入った。思った以上に川は深かった。二人の肩ほどの深さがある。ゆっくりゆっくり進んだ。
大岩を二つほど進むと川の中ほどに達した。流れは一層強くなっていた。慎重に進んだが、急な深みにイツキが足を取られた。必死に縄にしがみつくが、もう体は流れに持っていかれている。腰の縄が締め付ける。カケルは足を踏ん張って流されまいと必死だった。ギリギリと縄が音を立てる。イツキが顔を水面に出し、必死にカケルに手を伸ばす。カケルも手を伸ばし、何とか掴んだ。右手一本で張り縄を掴み、左手でイツキの体を引き寄せ、岩に抱きつかせた。
対岸では、ナギたちが固唾を飲んで見つめていた。
「大丈夫か!もう少しだ。カケル!」
その声に、カケルは手を挙げて応えた。そして、
「イツキ、大丈夫か?」
イツキはこくりと頷く。
「一緒に行くぞ。さあ。」両手を広げ、次の岩を掴んで進んだ。3つ目の岩を過ぎると、もう楽に進めるようになった。何とか、対岸に辿りつくことができた。
ナギは二人を強く抱きとめ、涙を流した。
「二人とも、よく頑張った。偉かったなあ。」
タカヒコもタツヒコも涙していた。
「よし、戻るか。・・帰りはわしがおぶってやろう。」
タツヒコがイツキを、タカヒコがカケルを背負い、山道を戻って行った。
青空には、ハヤテがカケルの様子を見ているかのように、ゆっくりと旋回していた。

岩場.jpg

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苦楽賢人

今日は、私の誕生日。とうとう50歳となりました。
何だか、急におじいさんになってしまったようで、もう無分別な事もできないなあとか・・・妻が一足先に50歳になりましたが・・・20歳から30年の付き合いになります。
人生って面白いと最近思うようになりました。
「アスカケ‐空白の世紀」も、そういう人の生き様っていろいろだなあと感じてもらえれば幸いです。
by 苦楽賢人 (2011-02-21 13:06) 

hana2009

お誕生日、おめでとうございます~☆
50歳で、急におじいさんなどと・・・
これからも、色々な事があおりかと思います。まだまだ楽しいことだってです!

by hana2009 (2011-02-21 16:33) 

苦楽賢人

hana2009さん、コメントありがとうございます。

家に帰ると、妻からの誕生日プレゼントがありました。
なんと、「白髪染め」でした。嬉しいような悲しいような・・それにしても妻は、ユーモアがあるのかそれともひどいのか、紙一重の人だと思います。感謝!感謝!
by 苦楽賢人 (2011-02-21 22:23) 

かこ

わわわ、遅くなりましたが…
お誕生日おめでとうございます!!!
奥様と30年…ですかぁ〜、すごいなぁ。。。
家はやっとこ15年かな?…って、かな?って…orz
by かこ (2011-02-22 17:15) 

苦楽賢人

かこ様、お祝いいただきありがとうございます。
15年・・・立派な時間でしょう。三日・三月・三年という区切り(?)があるように、時間というものは何かとても大きな流れがあって、人間の考えも及ばぬ働きをする事があります。振り返るばかりでは良くないと思いますが、自分を支えているのは、積み重ねた時間もとても大きな存在ですね。
夫婦である事、親子である事、50歳になって改めて考える事ばかりです。
by 苦楽賢人 (2011-02-23 08:50) 

姥桜のかぐや姫

苦楽賢人さま
お誕生日おめでとうございます。
当方から見ますとなんとお若い 実にうらやましい限りです(^0^)
当方70歳故、苦楽賢人さんには明日と言う日が沢山あります
その日々を多くの作品をとうし人々を楽しませてください
更なる作品楽しみに致しております。

by 姥桜のかぐや姫 (2011-02-27 18:21) 

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