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-母と子-9.母の薬 [アスカケ第1部 高千穂峰]

9.母の薬
カケルたちを連れて、男たちが村に戻った。村の皆は昨夜のハヤテの便りに一応安堵していたものの、やはり顔を見るまでは不安で、大門の前でじっと待っていた。高楼から様子を伺っていた長老が、男たちの帰りを知らせると、歓喜した。
カケルたちが、大門にたどり着くと、長老と巫女がカケルとイツキの前に立った。
「カケル、イツキ、勝手に村の外に出るとは・・掟破りじゃ。皆、どれだけ心配したか。」長老が、優しくも厳しい声で言った。
「ごめんなさい。」二人は声を揃えて謝った。
「掟破りには罰を与えねばならぬ。」
カケルはどんな罰でも受ける覚悟はできていた。
「カケルは、一月の間、魚とりに励み、皆の食い物を獲ってくるのじゃ。・・ハヤテの餌もな。・・イツキは、カケルの取る魚を使って料理し、皆に配るのじゃ。・・ナミの口にも良いよう工夫して食べさせるのじゃ。良いか。」
二人はいつもの仕事を一生懸命にやる事が罰だと言われ、少し驚いた。長老はそういうとにやりと笑って高楼に戻っていった。
「さあ、昨夜は疲れたであろう。少し休むが良い。・・休んだら、後で館に来るのじゃ。お前たちに話すべきことがある。」
巫女セイも、二人の元気そうな姿に安堵して、労わるようにそう言って館に戻っていった。

カケルとイツキは、家に戻った。二人が家に入ると、ナミは寝床から起き、何も言わず二人を抱きしめた。そこに、ナギが干草を抱えて部屋に入ってきた。
「二人とも、昨夜は岩の上にいて辛かっただろう。さあ、寝床を作るから少し休め。」
いつもより覆いふかふかの干草の寝床に二人は横になった。カケルは、村に戻るまで気を張っていたので、柔らかな干草の寝床に横になるとすぐに眠ってしまった。イツキも、カケルに寄り添うように横になり眠った。

二人が目を覚ましたのは昼を過ぎていた。ナギが用意した食事を済ませて、館に向かった。
館では、巫女セイと数人の女たちがが待っていた。
「・・来たか・・」
二人が館に入ると、巫女の前に、二人が取ってきたキノコが広げてあった。
「これは昨夜、カケルが無事を知らせた麻袋の中に入っていたものじゃ。・・すぐに、書物と照らして調べた。」
「それで・・それは母様の薬になるのですか?」
イツキが不安げに訊いた。
「うむ・・よくよく調べた。これは、霊芝というキノコじゃ。書物によると、痛みを沈め、体の毒を出し、滋養を与えるとある。きっと、ナミの体を直してくれるはずじゃ。」
「じゃあ・・母様は元気になる?」
カケルが訊いた。
「すぐには無理じゃ。しばらくこれを煎じて飲み続ける事が大事じゃ。毎日少しずつな。」
「わかりました。私が、母様の食事とともに飲んでいただくようにします。」
「ああ。それがええ。・・それと、母様だけではなく、他の体の弱っている者にも飲ませるとしよう。ワシも飲んだほうが良さそうじゃ。」
「じゃあ、これだけじゃ足りないね。」
カケルが訊く。
「ああ。書物によると、このキノコが採れる場所は限られておるようじゃ。お前たちが見つけた場所は大切にせねばならぬ。・・・今度、天気が戻り、神川が静かな時、村の者と一緒に行くのじゃ。むやみに取ってはならぬ。必要なだけ採り、薬として館に置くことにしよう。カケルよ。良いか。しばらくはお前があの森の守り主になるのじゃ。」
「はい。・・西の川は漁場。森を守ることは川を守ることと父様から教わりました。木も草も、魚もみなつながっておると・・しっかり守ります。」
カケルは神妙な顔つきで巫女の言いつけに答えた。
傍にいた、ハルとスズが、イツキに薬の作り方を教えると言い、イツキを連れて行った。
館には、カケルと巫女セイが残った。
「カケルよ。お前、この書物が読めるのか?」
カケルは、母に文字を教わり、全てではないが書かれていることの意味はわかると答えた。
「それならば・・」
巫女はそういうと、祭壇の下にある他の書物も出して見せた。そして、
「ここにある書物は、いにしえに我が一族がはるか大陸から持ち出したもの。我が村の宝じゃ。この中にはまだこの国には知られていない多くの知恵が詰まっておる。・・お前もいずれはアスカケに出るであろう。それまでにこの書物をすべて読むのじゃ。きっとお前の役に立つはずじゃ。いや・・アスカケに出ずとも、この村を守る力になる。」
「でも・・それは巫女様のお役では・・」
「ワシもそう長くはない。他にも文字を覚えたものはおるが、これからは多くのものが知る事が大事じゃ。子どものお前なら、覚えも早かろう。良いな。」

霊芝.jpg
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