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-母と子-10.団欒 [アスカケ第1部 高千穂峰]

10.団欒
カケルとイツキが持ち帰った薬の効果か、ひと月ほどでナミは動けるほどに回復した。それは、村の皆が驚くほどであったが、何より一番驚いているのは、カケルとイツキだった。
ある朝、イツキが目覚めると、ナミが竃の前で朝餉の支度をしていた。
「母様、起きても良いの?」
「ああ・・今日は随分加減がいいの。今、朝餉にするからね。昨日、カケルが採って来たヤマメがあるから・・」
「私も手伝う!」
イツキは、ナミが元気になったのを見て嬉しくて、朝餉の支度の手伝いと言いながら、ほとんどナミの周りでじゃれているようであった。
ナギとカケルもようやく起き出してきて、四人で朝餉となった。
「今日は随分楽なのよ。ねえ、久しぶりに外に出たいわ。」
「そうか・・まだ、遠くは無理だが・・・・そこの畑くらいなら行けるだろう。よし、ちょうど、山芋をとる頃だ。むかごも取れるだろう。一緒に行こう。」
ナギはナミの体を心配しつつも、久しぶりに外に出たいというナミの願いを聞き入れた。
イツキは、巫女に言われたように、ナミの薬を煎じて差し出し、ナミもすっと飲み干した。毎日の日課のようになっていた。
朝餉の片づけをしている時、ナギは表に出て背負子を出していた。カケルはそれを見て、
「どうするの?」
「ああ、かか様が疲れるといけないからな。背負子で畑まで行く。」
最初、ナミは自分で歩けるといったが、疲れてまた寝込んでしまうとカケルやイツキが心配するからと説得した。
「よし、行くぞ。」
そう言って、背負子を背負い立ち上がったナギは驚いた。ナミの体が思ったよりも軽かったからだ。見た目には、元気にしているが、やはり病気で体は随分痩せ細ってしまっていたのだ。
「・・カケル・・鍬と籠を持って来い。イツキ、竹筒に水を汲んでくるのだ。行くぞ。」
そう言うと、すたすたと歩き始めた。

畑まではすぐだった。畑の回りには、毎年芽が出て、夏には山のように蔓が茂っていた畑も、秋になり少しずつ葉が落ちかけていた。葉の付け根には、大きなむかごが実をつけていた。カケルとイツキは、籠をもってむかご採りに夢中だった。むかごは、蒸かすと甘くて美味しい。
「そろそろ、芋を掘り始めよう。」
ナギが立ち上がり、むかごのなっていた芋の蔓の根元を丁寧に吟味して、一番太そうなものを選んだ。そして、根元を少し残して蔓を切った。
「さあ、カケル。まずは周りを掘るぞ。」
そう言って持ってきた鍬で周りを掘り始める。
「きっとこいつは大きいはずだ。周りをしっかり掘るんだ。カケルも土を脇へ掻き出し徐々に掘り進めた。
「カケル、穴の中へ入って掘りあげるぞ。ほら。」
カケルが穴の中に身を入れてさらに掘る。山芋の形が徐々に姿を見え始めた。
「先のほうは細くなって折れやすいから気をつけろ。」
カケルは慎重に掘った。ついに、一番先までたどり着き、ゆっくりと引き上げた。
「思ったとおり随分大きい。これなら、うちで食べても余る。そうだ、赤子を産んだばかりのトモにも半分分けてやろう。」
秋の穏やかな陽の中で、ナギもカケルも泥だらけの顔で笑った。そして、傍で二人を見つめるナミも微笑んでいた。イツキはそうした風景を見ながら、顔さえ良く覚えていない父や母の事を想い出していた。

しばらく休んだ後、ナギが、
「ナミが少し疲れたようだ。家に戻るぞ。お前たちはどうする?」
「西の谷へ行く。・・今日もみなの食べ物を取る約束だから・・」
「私も行く。薬のレイシがもう少なくなったって巫女様が言ってたから。」
「そうか・・このごろは日暮れも早くなった。遅くならぬうちに戻るのだぞ。」
そう言うと、来た時と同じようにナミを背負子に座らせ戻る事にした。

家までの戻り道、背負子に座ったナミが、呟くように言った。
「二人とも、良い子に育った・・。カケルは人一倍元気で、あなたに似て力もある。きっと、すばらしいミコトになってくれる。イツキももう一人前。食事の支度も私の介抱もしっかりできる。・・本当に良い子に育ってくれた。」
ナミの呟きを、背中で聞きながら、ナギは、「ああ」とだけ答えた。
ナギには、ナミの言葉が、ただ安堵したという意味ではなく、「いつ自分が死んでも大丈夫ね」と、まるで別れの言葉に聞こえてしまい、涙をこぼしそうになっていたからだった。
ナミの体が、どんどん軽くなって、そのうちに、ふっと消えて見えなくなるんじゃないかという不安が胸をふさぐようで辛かった。

ムカゴ2.JPG


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