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-帰還-2.目印 [アスカケ第1部 高千穂峰]

2.目印
 深い深い竹やぶが続いていた。途中には、深い溝がいくつか掘られ、入る者を拒んでいるかのようであった。いくつかは飛び越え、いくつかは転げ落ち、這い上がり、なんとか越えた。そのうちに、茨の森を抜けると、大きな岩壁が見え、前が開けた。
地図に打たれた印の場所にたどり着いたようだった。特に怪しい雰囲気は感じなかったが、明らかに、人手で開かれた場所には間違いなかった。岩壁のやや斜面になった辺りに、こんもりとした盛り土のようなものがあった。カケルは近づいて、盛り土を見たが、何かを特定することはできない。少し、地面を削ってみると、古い黒炭が出てきた。明らかにここで何かを燃やしたのだった。カケルは、盛り土の周りを探った。足元に赤茶けた塊が落ちている。拾い上げるとずっしりと重くて硬い。石のようだが違う。何かが溶けて固まったようなものだった。
 カケルは、巻物を広げてみた。地図に続き、何だか読めない難しい文字があり、こんもりとした盛り土や炭、そして作業の様子が書かれていた。
「これで何かを燃やして、この茶色のものを作るのかな?」
更に広げてみると、叩いたり削ったりする絵があり、さらに、刀や棒のようなものが描かれていた。形から、猟をする時に、木や骨や石で作っている道具とよく似ていた。
「何か道具の元になるものが作れるというのかな?」
カケルは、その茶色の塊を懐にしまって、もう一度、地図をみた。
「確かに、この印が打ってある場所には何かある。次のところにも行ってみよう。」
 次に目指す印は、その場所から、東へ出て、高千穂の峰の登り口あたりのようだった。
 また深い竹薮を戻った。その先は、更に深い森だった。普段なら、立ち入る事は禁じられている森だ。
慎重に歩いている途中、妙な事に気づいた。来る時は気づかなかったが、ただ竹薮が広がっているのではなく、足元には石が敷き詰めてあるようだった。ところどころは、崩れてしまったり、草に埋もれていたりするが、確かに、平たい石が敷き詰めてあり、歩きやすくなっている。深い森のはずなのに、ちゃんと通れるような道がついているのだ。周りの木々にも、何かがぶつかり擦れたような跡もあった。次の目的地までは随分距離がある。
もう昼を回っていた。
途中、カケルは、サルナシの実を摘んだ。サルナシは、熟すと甘くなる。渇いた喉を潤し、空腹を満たすには好都合だった。カケルは、サルナシを持ったまま、辺りで一番高いくすの木によじ登った。梢から顔を出すと、森を上から見下ろした。深い森が、高千穂の峰の中腹辺りまで広がっていた。カケルは、梢の枝を支えにして、体を横たえ、サルナシをかじりながら、青空を見上げた。空には、ハヤテが旋回していた。
「ハヤテのやつにはすぐ見つかるなあ・・。」
カケルは、ハヤテの姿を目で追いながら、少しうとうととした。
ビューっと一陣の風が吹いてきて、枝が揺れた。その拍子に、カケルも目を覚ました。少し伸びをしたあと、カケルは次に目指す場所の方向を見定める。
目指している次の場所あたりは、少し森が薄く、陥没したような形に見えた。カケルは、巻物の地図と照らして、目指す方向を確認した。

sarunasi4.jpg

するすると楠木から降りると、再び森の中を進んだ。先ほどのような石畳が残る道だった。更に進むと、森の脇に、小さな洞窟のようなものがある。入り口は、蔦や苔で覆われ、中は真っ暗で様子がわからなかったが、自然の洞窟ではなく、明らかに人の手で開けられたものだった。よく見ると、他にも数箇所の穴があり、赤茶けた斜面も削られている。
「ここで、何かを掘っていたのかな?石かな?・・何を掘ってたんだろ。」
カケルには、この二つの関連は理解できなかった。再び、巻物を開く。どう見ても、この二つは何かを作るための仕掛けのようだった。

「あと三つあるな。・・・でも、印の形が違う。・・・どいうことは、また別のものか?」
そう呟くと、来た道を戻った。次の目印は、ナレの村よりも下・・つまり、南側の谷だった。何度か、ナギとともに行った事のある辺りだった。
「あの辺りには、何もないよな。・・背丈ほどの低い木が生えているだけのはず。」
山道を下りながら、全ての目印を探すのだけでも、大変なことだと思い始めていた。

ナレの村に戻れたのは、もう陽が傾き始めていた。3つ目の印には、明日行く事にして、一旦館に戻った。

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