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-帰還-3.神器 [アスカケ第1部 高千穂峰]

3.神器
館で、カケルはもって返ってきた茶色の塊と巻物を取り出した。
「一体、これはなんだろう。ただの石ころとは違うみたいだけど・・・。」
目の前にある塊を持っていた小刀で叩いてみた。キンキンという高い音が響く。ふと思いついた。
「そういえば、・・この刀・・石じゃないし、骨でもない・・・これって何で作ったんだろう。」
そうしているところに、巫女が戻ってきた。
カケルが頭を掻きながら、何か考え事をしているのはすぐにわかったが、それよりもカケルの目の前に置かれた塊をみて驚いた。
「カケルよ!それをどうした?」
「ああ、セイ様。・・・巻物の印の場所を探していて、拾ったんです。・・これは何ですか?」
セイは塊を手にしてじっと見入った。そして、塊をそこにおくと、じっと考え込んだ。ふっと立ち上がり、祭壇に向かってうやうやしくお辞儀をすると、やにわに手を入れた。祭壇に奉納されている神器を取り出そうとしている。慎重に取り出すと、カケルの前にゆっくりと置いた。村の者には、神器を見ることは許されていなかった。カケルは、慌てて頭を床につけ眼を閉じていた。
「カケル。顔を上げてよく見るのじゃ。」
カケルはおそるおそる顔を上げ、神器を見た。それは、鈍い銀色の光を怪しく放っていた。カケルが両手を広げたほどの長さがあり、鋭く尖っていた。
「これは、剣(つるぎ)じゃ。・・・・お前が拾ってきたものは、この神器、剣(つるぎ)を作る元になるもので、古人(いにしえびと)はハガネと呼んでおったようじゃ。・・・おお、そうじゃ、お前が持っている小刀も同じじゃ。ミコト達や、限られたものが代々受け継いできた。・・お前が見つけたのは、このハガネを作るタタラという場所じゃ。・・どうの昔に隠され、だれも見つける事はできなかった。・・いや、見つける事は禁じられてきたのじゃ。」
「どうして?」
「この剣は、神の道具。大いなる力の元なのじゃ。それは、災いを払う。神器として祀るのも、その大いなる力で一族を災いより守りいただくためじゃ。じゃが、大いなる力は時として、大きな災いや争いを生む。命を危め、一族を滅ぼすこととになる。古人はそれを恐れ、その元を作る場所・・タタラ場を見つける事は、一族に災いが及ぶと謂われてきたのじゃ。」
「もうひとつの場所は、洞穴でした。・・何かを掘っていたような・・」
「おそらく、ハガネの元になるものを掘っておったのじゃろう。・・ハガネは砂より生まれる。砂を焼き続け、砂の命を取り出し、冷やし固めるとハガネができると言う。砂はこの大地そのものじゃ。よって、大地の命を削り、焼き、冷やし固めて生まれるハガネには、この大地の命が封じ込められておる。いや、大地の怒りの固まりやも知れぬ。だからこそ、人を危める剣となるのじゃ。古人は、この剣を作ったのち、タタラ場を壊し、隠した。のちの一族に災いが及ばぬようにしたのじゃ。」

この時代、この国にはまだ鉄を作る技術は広まっていなかったとされている。大陸の戦乱の中、難を逃れ、倭国へ渡った渡来人にとっては、鉄器はなくてはならないものであった。砂鉄を探し、炭を作り、タタラ場を作る事は重要な事であった。一方で、渡来人である証であり、倭人との諍いも起きたであろう。剣等の武器を作り、倭人を力でねじ伏せることもできたはずである。この倭国で、倭人と共に生きていくために、この一族の先人たちは、大陸からの高い技術を敢えて封印したのである。

「カケルよ。この塊は隠しておくのじゃ。まだ、時は来ておらぬ。今しばらく、タタラ場の事は皆には秘密じゃ。良いな。」
「はい。・・・だけど・・」
「お前の言いたい事は判る。まだ待つのじゃ。いずれ役に立てる時が来る。・・それより、巻物には他にも何か隠されているのではないか。」
「はい。まだ・・。」
「タタラ以外の事は、きっと今の我らの暮らしに生きるはずじゃ。まず、それを探し当てるのじゃ。・・お前の母を救った薬草のように・・良いな。」
巫女セイはそう言うと、奥の部屋に入ってしまった。
カケルも、一日中、山を駆け回ったせいか、随分疲れてしまい、家に戻る事にした。

その夜遅く、巫女セイは長老と話していた。
「カケルが、タタラ場を見つけたようじゃ。」
「・・なんですと・・我らが何年も探して見つけられなかったものを・・・やはり、カケルには底知れぬ力があるようだな・・・。」
「いずれ、またハガネを作る日が来よう。・・村にも・・恵みと災いが来るのであろうな。・・」
「今しばらく、時を待とう。・・・アスカケから戻るミコトもある。その者からも様子を聞き、タタラ場を興すかどうか決める事にしよう。」

けら.jpg
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