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-帰還-4,三つ目の印 [アスカケ第1部 高千穂峰]

4.三つ目の印
次の日から数日は、雨続きになり、カケルも隠された印の場所を探すのは諦め、漁に使う銛や籠の手入れをしたり、母の薬の下ごしらえ等の仕事で過ごしていた。父ナギも、猟のための仕掛けを手入れして過ごしていた。
「とと様、この小刀は・・」
と言いかけてカケルは止めた。タタラ場で見つけたハガネの事を知られると思ったのだった。
「何だ?カケル。その小刀は、お前の爺様のものだ。お前が生まれた時、爺様がくだされた。よく研げば、何でも切れる。」
「とと様も持ってる?」
「ああ、俺のは、俺の爺様から貰ったものだ。お前のものよりも少し重くて大きい。使いづらいが、猪を捕らえる時には役に立つ。しっかり身を裂けるからな。」
「ミコト様は皆持ってるの?」
「ああ、この村にはそれぞれの家に伝わった小刀があると聞く。確か、村には小刀は9本あると聞いたが・・誰がもっておるのかは知らぬ。」
「何か、特別なものなの?」
「ああ・・古より伝わるものだ。一族を災いから守るため、神様が下されたものだと・・・粗末に扱うのではないぞ。・・それと・・できるだけ身につけ、盗られたり、見られたりせぬよう気をつけるのだ。」
カケルは物心ついた時には、腰につけていた。小さい頃から、父ナギに同じ話を聞かされていたが、これほど大事な事だとは思っていなかった。巻物の秘密を知った事で、小刀も違ってみえる。
数日が過ぎ、ようやく天気が回復した。カケルは3つ目の印の場所へ行く事にした。
3つ目は、村の南側、大門を出て、村のある丘を少し下ったところだった。アスカケに出たケスキが下った道を少し進み、途中でまた、山手に上がる場所になっていた。カケルはゆっくりその場所への入り口を探って、昨日の山の中で見たのと同じような石敷きがあるのを見つけた。草が生い茂り、入り口には盛り土がされ、そこへ立ち入るのを遮っているようだった。古人が塞いだのだとカケルは感じ、ここに次の秘密があると確信した。
 盛り土をよじ登ると、カケルが予想したとおり、低木が一面に広がっていた。この近くには、ナギにつれられ、ウサギの猟をしたことがあった。
「ここに何があるのだろう」
昨日のタタラ場のような造り物はなさそうだった。背丈ほどの低い木の中を何度も何度も歩いてみたが、何も見つからなかった。中ほどに少し木の生えていない場所があり、カケルは歩きつかれたので、そこに体を横たえ、大空を見上げた。初秋に入って、日陰は心地よい風が吹き、昼寝にはちょうど良い気候で、カケルは少しうとうとしていた。そのうち、何か地響きのような、低い音が聞こえた。空は晴れている。どこからするのか耳を澄ました。・・・どうやら、地面から聞こえてくるようだった。カケルは起き上がると、辺りの草を刈り、地面をむき出しにしてみた。少し地面を掘ると、硬い石に当たった。さらに石の周りを掘った。それは、自分の身の丈ほどの大きさで、まるで地面に蓋をしているような石があるのが判った。
「この石の下に何かあるんだ。・・低い音が聞こえる・・・何があるんだろう・・」
石をじっと触ってみた。普通、石ならひんやりとするはずなのだが、この石は何故か温かい。カケルは、石の上にかかっている土を全て払い、周りを掘り始めた。どこか、中が見えるような箇所はないか、とにかく掘り続けた。その石は、まるで亀のような格好をしていた。頭に当たる部分には明らかに掘り込まれた跡がある。その下にわずかに見える部分にも石組みがされていた。どうやら井戸のような形になっているのがわかった。しかし、カケルの力ではこれ以上は無理だった。疲れ果て、石を椅子にして座った時だった。先ほどの地響きのような音が、足元からどんどん近づいてくる。そして、どーんと当たったような衝撃を感じた。岩の隙間から、熱い蒸気が噴出してきた。辺りには湯気が立ち込めた。
 最初、カケルは何が起きたのか判らず呆然としていた。しばらくして、我に返った時、ここが熱い湯が噴出すところだと判った。
 この時代、人々はまだ湯に浸かる習慣は持っておらず、体を洗うのは川の水を使う程度であった。火が貴重な時代である。大量の湯を沸かす事は、並大抵の事ではなかったのだ。
 カケルは、館で読んだ書物を思い出していた。確か、病を治す方法の中に、体を熱い湯に浸ける事が書かれていたのだ。母の病を治す方法として覚えたが、体を浸けるほど大量の湯を沸かす事は容易ではない。その湯がここには大量にあるのだ。カケルは何としてもこの湯を使いたいと考えた。すぐに村に戻り、相談する事にした。
カケルの話を聞いた長老は、すぐにミコト達を集め、カケルが見つけた場所に向かった。
「おお、確かに、湯気が出ている。・・・よくやったぞ、カケル。」
ミコト達は力を合わせて、蓋になっている石を棒を使って動かし始めた。ギリギリと音がしてゆっくりと石はずらされた。カケルが予想したとおり、蓋石をどけると、井戸のように石が汲まれていた。中を覗いたが、湯はなかった。小石を投げ入れると、しばらくして音がした。遥か底の方に水面があるようだった。
「これじゃあ、湯を汲めないな。・・・」
そう言った時だった。先ほどのように、いきなり音がして下から蒸気が上がってくる。そして、勢い良く湯気が立ち上り、湯が噴出した。周りに居たミコト達は、全身、ずぶ濡れになった。始めてみる光景に、カケルもミコト達も驚き、歓喜した。何度か同じように噴出したが徐々に落ち着き、岩の囲いを超えて流れるようになった。ミコト達は周辺の低木を次々に切り払った。

源泉.jpg
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